第25話

「そっかー。あれでも安すぎたのかあ。値段決めるの難しいな。……あ。チップに拠点手に入れたって伝えるの忘れてた。まあ、村にしてから住民に誘ってみるか。確か、明日から補習でしばらく夜しかインしないはずだからな。俺は、逆に夜はインできないし……」

 安すぎると怒られたが、MPポーションの売り上げのおかげで一気に所持金が30万Gまで増えたこともあり、すっかり有頂天になっていたのだ。

 この臨時収入のおかげで、拠点の工房化も目途が立った。しかも、MPポーションはこの先値段が落ち着いたとしても、安定して売れ続けるだろうから、金欠からも脱却できそうである。


「さて。気を取り直して、村の開拓に勤しみますか」

 拠点に向かうまでに拾った素材を使い、MPポーションを追加で少し作った後で自宅周辺の環境を整えることにした。

 将来的に村に発展させるからには、使いやすい方がいい。

「あの切り株はそのまま活かしたいから残すとして、せっかくのご神木だし近くに祠でも作るか。それとも、教会を建てた方がいいのだろうか? あと欲しいのは、プレイヤーバザーと素材屋だろ? 村人が増えたら何かやってくれるのかな?」

 カフェのマスターの両親を呼ぶとして、家は聞いてから建てた方が賢明だろう。チップとシュン、アヤネを招き入れるとして、こちらもある程度要望を叶えてあげたい。

「先にやっておくのは、区画と道の整備くらいか。後は、移住してくれる人と商業組合と教会の要望次第だな。うーん。やっぱり後で教会建てるにしても、切り株の近くに祠だけでも建てとくか」

 周辺の廃屋はすでにきれいさっぱり素材にしてしまっていたので、自宅以外何もなく、殺風景な中にでーんと切り株だけが存在感を放っていたのだ。

 これが、どうにも気になった。

「マリー」

「はいはーい」

「ここにいた森の守り神って、どんな神様だったんだ?」

「んー。マリーもよく知らなーい」

 広い空き地を目の前にして、マリーは走り回っているばかりだ。ユーレイだというのに走り回っているのだが、奇妙というよりは微笑ましい光景だ。

「そっかあ。今も蜘蛛の姿のままなのかねぇ?」

「そうなんじゃない?」

 時々、マリーのことをNPCであると忘れることがあるほど、受け答えは自然なものだった。そのせいもあり、マリーと会話することにも慣れてきた。

 小さな両開きの扉を使った、最小サイズの家を作る。背丈ほどしかない高さのため、屋根をつけるのにも苦労はしなかった。最後に、お供えできそうな小さな机を置き、食器や花瓶を並べると、思っていた以上に祠感のある建物が出来上がった。

「お! 自分で作っておいてなんだけど、ご利益ありそう」

 ハルマは、素材として拾ってあった花と木の実を供え、手を叩いて拝んでみた。

「この村が、まだ村じゃないけど、再び活気を取り戻せますように」

 気づけば、マリーもハルマの隣にしゃがみ、手を合わせている。

「この村にいっぱい人が来て、いっぱいイタズラできますように!」

「おいおい」

「イシシシシ」

 ハルマが呆れていると、マリーは笑いながら再び宙に浮かび上がり、楽しそうにクルクル回り始める。

 その様子を眺めていると、マリーが退屈しない村になるといいなと素直に思えるのだった。


 祠もどきを作ってからは、大工スキルを使って大まかな区画を決め、本来は床として使う石畳を敷き詰め道を整備していく。

「さて。こんなもんかな? 一度町に戻って、あのカフェやら商業組合やらに話を聞きに行ってみるか。あ、いや、その前に建材用の素材を集めておくか。木材系の素材は森の中の方が集めやすいからな」

 方針を固めたところでマリーを呼ぶ。森の中の戦闘といったら、すでにマリーとラフのコンビに任せることが暗黙の了解になりつつあった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る