第24話

「とりあえず、拠点を本格的に運用していく前に、これだけでも使えるようにしないとな」

 新しく手に入れた自宅に向かうと、前日に購入だけしておいた〈調合〉設備を設置する。〈調合〉に必要不可欠な作業ができる上に、最低限の道具も収納されているのだが、見た感じただの質素なテーブルである。これが15000Gもしたのだ。

「くそー。これのせいで貯め込んだ素材も材料も装備品も、だいぶ売り払うことになったぜ。しかも、所持金もほとんどゼロ……。稼がないとなぁ」

 ハルマは、早速小瓶を取り出すと、水系素材である朝露の雫を注ぎ込む。

「で、マギアのつぼみからMPを〈ドレイン〉して、っと」

 ゲーム開始から初めての魔法使用である。インベントリから素材であるマギアのつぼみを取り出し、作業台の上に乗せると手をかざして魔法を発動させる。

「〈MPドレイン〉っと。ふむ。俺のMPに別メモリで足されるのか。後は、これを〈MPリバース〉で、いいのかな」

 かざしていた手をマギアのつぼみから水の入った小瓶に移動させ魔法を発動させると、吸い取ったMPが注ぎ込まれ、無色透明だった水の色が澄んだ青に変化して仄かに発光を始めた。

「良かった。完成だ。……あれ? 何か俺の知ってるMPポーションと違う気がするんだが? ま、いっか。じゃんじゃん作って稼がないとな。さっき見て来たギルドの様子だと、まだまだMPポーションの需要は高いみたいだし。波に乗り遅れた分、がんばらないと」

 生産職をメインにやっていくつもりで始めたのに、生産職が輝いている今出遅れてしまっているのだ。おかげで拠点を手に入れることができたとはいえ、遅れを取り返そうと次から次にMPポーションを仕上げていくのだった。


「あれ? やっぱり変だぞ? これ、本当に同じアイテムなのか?」

 持っていた素材を全部使い果たし、プレイヤーバザーに出品しようと町に戻ってから気がついた。

 MPポーションの相場を調べようと、売られているものをチェックしていたのだが、どれもこれもハルマの所持しているMPポーションよりもかなり粗悪品なのである。それでも、見ているうちに次から次に売れていく。

「売られてるの、どれも回復量が12~15しかないのだが?」

 インベントリに大量に収納されているものは手作業の部分がほとんどないため、全て同じ性能であり、回復量も倍以上の40であるのだ。

 何が違うのかと首を傾げる。

 ただ、違う点は明白だった。

 抽出機を使っているか、魔法を使っているかだ。

 では、どうしてそこまで差が出たのかと考え込む。

 抽出機を使ったMPポーションの作製は、ドリップコーヒーを使ってコーヒー牛乳を作るようなものだった。つまり、ドリップコーヒーの濃さが問題なのではなかろうか? と、仮説を立てた。

 実は、この仮説は正しかった。

 現在、抽出機で使う紙の質が非常に悪いのだ。そのため、純度の高いMPを抽出できずに、その上、水系素材で薄めなければならないために効果の低い粗悪品にしかならないのである。

 その点、ハルマは魔法によって純粋なMPのみを溶かし込むことができたため、大きな差となっていたのだ。しかし、実はこれでもまだ最高級品とまでには至っていない。

 ハルマのINTが低いせいで、〈ドレイン〉による抽出が最高値に達していないためだ。むろん、当のハルマがそんなことを知るはずもなかった。


「しかし、困ったな。これじゃ同じ価格帯で出すわけにはいかんぞ? 回復量に合わせて単純に2.5倍? それとも付加価値つけて3倍くらいで大丈夫かな? いや、それだと攻め過ぎか? そんな高額なMPポーション、売れるのか?」

 プレイヤーバザーの前でひとり――マリーは気ままに周囲をふらついている――腕を組んで悩んでいたが、意を決したように操作を始めた。

「とりあえず3倍で様子を見てみるか。売れなかったら値段下げればいいだけだし」

 ドキドキしながら出品を終えると、すぐに反応があった。

「え!? もう売れた!? 3倍でも売れるんだな。良かった」

 安堵したハルマは、作ったMPポーションのほとんどを同じ値段で次々と出品するのだった。


 この後、チップとのチャットでMPポーションが飛ぶように売れたことを自慢したが「安すぎるぞ、バカ!!」と、怒られるのは、もう少ししてからである。


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