第17話

「さっきぶり」

 町中を散策してみたが、やはり見当たらない。

 図書館のように人目につきにくいところにあるのかもしれないと、狭い路地も回ってみたのだが、そうなると広大な町である。手がかりもなしに探すのは一筋縄ではいかないと判断したところでチップにチャットしていた。

「おう。ハルマから連絡くれるなんて珍しいな。抽出機ならまだレシピ取れてないぞ。ってか、ドロップするモンスターの取り合いになってるから、ちょっと時間かかりそうだ」

「いや。それと無関係じゃないんだけど、知ってたら教えて欲しいことがあるんだ」

 ハルマは見て来たばかりの調合ギルドの様子を伝えると、拠点を作る方法を知っていないか尋ねた。

「なるほどね……。しかし、オレもよく知らないけど、他のゲームみたいに専用サーバーがあるわけじゃないみたいだぜ? 始まりの町の中に、いくつか建物があって、買い取るか賃貸するかで使えるらしい」

「え? それだと数が少なくない?」

 仮に各町に1000あるとしてトータル6000である。プレイヤー数は正確には発表されていないが初動で20万人とも30万人とも、それ以上ともいわれているのだ。これではまったく足らない。それどころか、高層建築はどの町でも見たことはないので、1000という数字も用意できていないのではと思われた。

「あー。もしかしたら、エリアを進んだらもっと大きな町が見つかって、そこにあるのかもしれないけどな。それに、買い取りだと最安値でも200万Gだったか? 賃貸でも買い取り価格の20%が月々かかるらしい。現状、誰も使えてないんじゃね?」

「にひゃ……。俺の所持金、6500Gなんだが?」

「あっはっは。それは少なすぎだろ!? まあ、オレらも装備品やら消費アイテムやらで消えていくから全然たまってないけどな。だから、ハルマから安定して安価のアイテムを買えるようになりたいところだ」

「あー、それは、うん。約束するよ」

 この後もチップといくつかやり取りをすると、ハルマは念のためにと物件を探しに行ってみることにした。


 向かったのは、町の中央にある商業組合の支部だった。

 この町の職人ギルドの職員も、立場上はここから派遣されていることになっており、物流と金融を支えている組織である。

 所持金とアイテムの預り業務を行ってくれる銀行部門と、取引所プレイヤーバザーによるプレイヤー間のアイテムとゴールドの受け渡しを代行してくれる組織である。

 基本的に、便利なシステムという認識だったため、ここで不動産も扱っているとは思っていなかったのである。

 建物の中に入ってみると、確かに家のマークが掲げられている受付が存在した。

「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」

 受付の女性は柔らかな表情ながらも、きりっとした受け答えで対応してきた。

「あの。拠点として使える物件を探してまして……」

「なるほど……」

 そこから後は、チップの説明とほぼ同じ内容だった。違いがあったとすれば、家の大きさによっては最高で2500万G必要になることが新たにわかったくらいである。

 一応、物件のある場所を教えてもらえたが、最安値で一月使うにしても、まったく所持金が足らないことに変わりはなかった。

 それどころか「あら。あなたはいくつも職人スキルを持っているんですね。それだったら、大きなサイズの家でないと、職人設備は置き切らないですよ」と、言われる始末。

「ってことは、最低でも450万Gかよ。こりゃ、拠点持てるようになるのはいつになるやらだな」

 ガックリと肩を落とし、この日はログアウトするのだった。





 

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