第3章 MPポーションはじめました
第18話
「450万Gかー。職人をしぼったとしても、200万Gかー」
インするのが少し遅かったこともあり、調合ギルドに入った瞬間に大混雑だとわかった。空くのを待っているのは馬鹿らしく感じ、素材でも集めておこうと即座に踵を返す。
何もMPポーションだけが売れるわけではない。ゲームは始まったばかりであるので、他の消費アイテムも装備品も買い手はいくらでもいるのである。
HPとMPはフィールドでも非戦闘時であれば1分に1回復し、町などのセーフティエリアでは1分に3回復する仕組みだ。
つまりは、移動中にもMPは回復する――そもそも、ハルマの場合は戦闘中にMPを消費するスキルも魔法もない――からと、まずは先に錬金をしてから外に出ることにする。
ウィンドレッドの町に移り、錬金ギルドに入ると調合ギルドとは打って変わって、落ち着いた雰囲気だったものである。
「じゃ、マリーとラフ。後はよろしくな」
錬金を済ませ予定通り移動した後は、前回同様、戦闘はふたりに任せて素材集めを行うことにした。
「まかせろー」
「承知したにゃ」
この日も、ウィンドレッドの平原を抜けた森林エリアを重点的に捜索する。必要な素材が多く取れるからというよりは、やはり、人目を気にしてのことだった。
そうやって森の中を奥へ奥へと進んで行く。
目につくモンスターに大きな変化もなく、危険を感じることもない時間が過ぎていたが、とある開けた場所に出たところでマリーが声を上げた。
「あー! ここ、マリーが住んでたところだー!」
よく見ると、確かに小さな村があったらしき跡地だった。
「マリーは、ここに住めなくなったから教会のお世話になることになったのか」
「ちょっと違うけど、そうだよ。マリーもあんまり覚えてないけど、あそこの大きな切り株に村の人が集まってお祭りやってたのは覚えてる」
マリーが指さす方向には、幹回りが20メートルはありそうな切り株があった。
「もともとは、この辺の森を守る神様が住んでたらしいんだけど、魔物にだまされてクモにされちゃったんだって。で、それを知らない村の人がご神木が乗っ取られたと勘ちがいして木を切っちゃったの」
「なるほど。後になってから蜘蛛の正体がわかったけど、ご神木は元に戻らないから神様は戻ってこないまま、徐々に住めない土地になっていったと?」
「大せーかい! でも、おかげで、マリーたちは町に移り住めたんだけどね。この村にいた時より友だちいっぱい増えたんだよ!」
「ん? 孤児になったんじゃないのか?」
「パパとママが死んじゃったのは町に移り住んでからだよ。マリーと同じ流行り病が原因。マリーは子どもだったから、病気の進行が遅かったんだって」
「そ、そうなのか」
まるで他人事のように話すマリーに、心の中で「これはゲームの話、これはゲームの話」と繰り返す。
「それにしても、この辺モンスターも全然出ないから、住めない土地には思えないけどな」
村の跡地をひとしきり回ってみたが、廃屋がいくつかあるだけで危険地帯には思えなかった。1軒だけだったが、少し手を加えれば住めそうな状態の家も残っている。
「そういえば、そうだね。んん? おかしいなぁ? モンスターさん、どっか行っちゃった?」
マリーは宙に浮かんだまま腕を組み、首を傾げる。その動きに合わせるように、ラフも同じく腕を組みながら首を傾げて見せる。
「なあ、この村の生き残りって、誰か知らないか?」
何となく気になり、知っているNPCを探してみたくなった。
「んーとねぇ。マリーがダイバーさんのカバンを盗んだカフェのマスター。ウィリアムっていうんだけど、マリーの幼馴染なんだ。あいつ、マリーがイタズラしてもぜんぜん気づいてくれないの!? ひどくない?」
ハルマは思いがけないところで線がつながったことに、びっくりするのだった。
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