第4話

「こっちはシュンとアヤネと合流してレベル12まで上げたぜ。最初のエリアボスは俺たち3人がレベル8の時でかなり余裕で突破できたから、ソロのハルマでもいけるんじゃないかな? アヤネが回復魔法覚えてくれたってのもあるだろうけど……、β版のテスターの情報通りっぽい。ダメそうだったら手伝うから、遠慮なく言えよ」

「半日でもうそこまで上げたのか。俺はまだ3になったばかりだわ。わかった。まだ、次のエリアに進む予定はないけど、難しそうな時は頼むよ」

 翌日、ログインしてすぐにチップからフレンドチャットが飛んできて、いくつか情報交換をおこなった。

 チップは根っからのゲーマーであるため、全プレイヤーの中でもレベルは高い方である。つき合わされているシュンとアヤネに軽く同情したが、このふたりも昔からのゲーム仲間であるため、そこまで苦に感じていることはないだろうことは理解している。

 次のエリアに進むためには専用のボスを討伐する必要があるのだが、今のところ他のプレイヤーがそれほど進んでおらず、始まりの町周辺よりはレベル上げがやりやすい以外に大きな変化もないようなので、ハルマは先に町中の探索を進めることにしていた。

 何より、生産職を目指すにはやらなければならないことがあったのだ。


 目的地にたどり着き、大きなドアを開け建物の中に入ると、近くにいたNPCに声をかけられた。

「ようこそいらっしゃいました。こちらは錬金ギルドです」

 町の中央通りの目立つ場所に、そこはあった。

 ハルマは生産職をメインにやっていきたいのである。であるならば、生産に関するクエストをこなしていかなければならない。

 生産にはいくつか工程がある。


 素材を加工し、装備品や家具などの日用品の材料となる中間素材へと変化させる〈錬金〉。

 素材を加工し、消費アイテムへと変化させる〈調合〉。

 錬金によってできた材料を加工し、装備品や日用品に仕上げる〈鍛冶〉、〈木工〉、〈裁縫〉。

 出来上がった装備品に消費アイテムを組み込み、特殊効果を付与する〈魔加術〉。

 見た目を変化させる〈細工〉。こちらは、見た目に関係するからか、アクセサリーの作製も担当になっている。


 これらすべて自由に行うことが出来るが、専用のクエストをクリアして職人としてのスキルを獲得しなければならない。また、どの工程にもレシピ――基本レシピでありアレンジは可能――が必要であり、専用の設備を使わなければならない。レシピの入手方法は様々だが、それぞれの生産職ギルドで初歩的なものは入手することができた。


 ハルマは入口のNPCに錬金師になるためのクエストを受けに来たことを告げると、奥の部屋を案内された。

 そこに、このギルドの館長がいるので仕事を紹介してもらえるということだった。奥の部屋へ向かう途中、すでに多くのプレイヤーが錬金作業を行っているのを見ることもできた。

 2つ、ないしは3つのアイテムを魔法陣の上に配置し、MPを消費することで材料へと変化させることができるようである。

 ハルマも館長から仕事の斡旋という形をとったクエストを受けると、初歩の錬金レシピと必要最低限の素材をもらい、空いている魔法陣で早速作業を始める。

 クエストで依頼されたのは銅のインゴットである。

「金属のインゴット作るのに、炉を使わないってのは面白いな」

 この辺のアイテムは鍛冶師の専門分野のイメージが強いからだ。

 ハルマは指定された場所にレシピ通りの素材を置いていく。とはいっても、渡された銅鉱石とマグマ石をひとつずつ置いただけである。

「後は、ここに両手を置いたタイミングで勝手に錬金が始まる、と」

 視界の中に表示されたガイドに従うだけでMPが自動で消費され、配置されていた素材が宙で溶けて混ざり合い、中央に銅のインゴットとして再構築されていく。

「レシピ通りなら失敗することはないのね。MP不足の場合は錬金が始まらないってことは気軽にできるな。ま、MPにもポイント振ってないから、ガンガンやれるってわけでもないけど……。うーん。錬金はDEX極振りの恩恵はなさそうか」

 館長の所に戻り、作った銅のインゴットを提出しクエストをクリアすると、報酬のゴールドと、今後、自由に錬金スキルと錬金ギルドの設備を使う許可をもらうことができた。

「どこの職人ギルドのクエストも、こんな感じかな?」

 この日のうちに各地に点在する全ての職人ギルドのクエストをクリアして、生産職としての一歩を踏み出したのだった。

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