Ver.1 魔王襲来

第1章 スキル発見

第1話

 夏休みに合わせるように『Greenhorn-online』が発売されてすぐ、ハルマは親友のチップに誘われて購入していた。事前に公表された情報は少なかったものの、多くのMMORPG同様、始めるなら早い方がいいと急かされたからだ。

 誘われたということは、チップとしては当然一緒にパーティを組んで遊ぶつもりだったのだが、ハルマにその気はあまりなかった。

 サービスが正式にスタートし、アカウントの作製に始まりアバターなどの諸々の設定が終わらせ、早速インしたところで合流する約束をしていた。フレンドとして登録しておけば、ゲーム内で便利な機能を使うこともできるのだが、互いの了承が必要なため実際に会って登録し合うことにしたのである。

 むろん、それは建前であり、新しく始まる冒険への期待と興奮を共有したかったというのが本音である。

 しかし……。


「え!? ハルマ、DEXに全振り?」


 始まりの町のひとつであるウィンドレッドで合流してすぐ、見せられたステータスにチップは驚きを隠さなかった。

 攻撃重視のSTRであるとか、防御重視のVITであるとかに多くのステータスポイントを振り分ける者は多かった。しかし、ハルマの選択は最初にボーナスとして自由に振り分けられるステータスポイントの100を、全て器用さに分類されるステータスに振り切ってしまうというものだった。

 各プレイヤーが任意で伸ばせる部分とは別に、レベルアップによってベースとなるステータスは自動で成長していくので後々調整できないこともないのだが、βテストの段階では、極振りで生き残ることは不可能に近いことが報告されていた。VIT極振りであれば、序盤の最弱モンスター相手なら生存も可能だったが、それもすぐに行き詰ってしまったらしい。

 ステータスポイントの振り直しは将来的には可能になると明言されているが、時期も仕様も不明のままであり、気軽に行えるものではないことは匂わされている。

 とはいえ、救済措置として、レベル10までなら使える振り直しアイテムが最初に配布されているので、スタートで躓いても深刻な問題とはならない。

 ただし、あくまでも救済措置用のアイテムなので、これを使うと特有のスキルやアイテムなどもリセットされてしまい、レベルが維持される以外ほぼリスタートに近い扱いになる。そのため、ちょっと気に入らないから振り直そう、みたいに気軽な感覚では使えないアイテムなのである。

「あー。俺、生産職をメインにやっていくつもりなんだよ。だから、たぶんパーティ組んだら迷惑かけるだろうから、俺のことは気にせずシュンやアヤネなんかと遊んでくれよ。あいつらも今日から始めてるんだよな? で、珍しい素材を見つけたら俺にわけてくれ」

「マジかー」

「おいおい。最強プレイヤーの証、魔王を目指そうとしてる親友をサポート重視で協力してやろうっていうんだぞ? ありがたく思えよ」

 イタズラっぽい笑みを浮かべるハルマの言葉が、半分本心、半分虚偽であることはチップにもわかっていた。

「まったく……。まぁ、そういう奴だから誘ったんだけどさ。わかったよ。こっちはこっちで好きにやるさ。でも、たまには一緒に遊ぼうぜ」

「おう。学校で会うとはいっても、夏休み中にやれるだけやっておきたいからな。俺も行ける範囲で遊べるように試行錯誤してみるよ。夏休みが終わる前に、一度くらいは面白そうな場所に行こう」

「わかった。それまでに一度はイベントあるようなこと言ってたから、ひとまずそれを目標にするか。それまでに、こっちはハルマが興味持ちそうなエリアを探しつつ戦闘面でサポートできるようになっとくよ」


 始まりは、こんな感じだった。

 そう。ハルマは、純粋に生産職を極めようと思っていたのだ。

 せっかく、ゲームの神様が様々なプレースタイルで遊ぶことを推奨しているのだ。今までと同じ遊び方をするのはもったいないというものだ。何より、自分のペースでまったりと遊びたかったのである。

 しかし、まだ、誰も知らない。

 彼が、将来、不落魔王と呼ばれることになることは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る