魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

プロローグ

 ゲームの神様を選べと言われたら、多くの者が答えるだろう人物がいた。

 安藤雄仁。ゲームデザイナー。73歳。若い頃より手掛けた数々のゲームで、世界中を熱狂させてきた天才クリエーター。

 しかし、それも一昔前までの話。


 ……と、思われていた。


 近年では、ディレクターとしてメインで参加することはなく、ほとんどの作品で相談役として後進の育成に精を出しているだけだった。

 それ以外では、レジェンドとして広く認知されている知名度を利用して、広報として顔を出す程度だったのだが、その年の冬、唐突にひとつの新作をリリースすることが発表されたのだ。


 新作発表会と銘打たれ情報誌等の記者が集められただけでなく、リアルタイムで動画も配信される力の入れようは、安藤の持つ実績からくるもので間違いない。

 若いプロデューサーと並んで発表会に登場した安藤は、冒頭いきなり流されたプロモーション用の動画が終わると、挨拶を始めた――。


『Greenhorn-online』


 安藤氏いわく、集大成として作ったVRMMORPGとのこと。

「私はね。いつの頃からかプレイヤーを横並びに扱うことがつまらなく思えてきましてね。ある程度時間をかければ、どのプレイヤーも最高レベルに到達し、最高ランクの装備で身を固められる。差が生じるのは、プレイヤースキルと呼ばれる個人の技量によるところが大きくなってくる。それも、一部を除いて、ごくわずかな差でしかない。ネットで情報を集めれば、最適解と呼ばれるものがすぐに見つかる。それが悪いことだとは言いませんが、そういうゲームは、いくらでもあるでしょ?

 だから、今回はゲームバランスなんて気にせず、好き勝手に作らせてもらったんですわ。だから、遊ばれる方も、あの人が使ってるスキルが覚えられない、あの人が持ってるアイテムが入手できない、などと文句は言わないでくださいね。そういう仕様ですから……。

 でも、燃えるでしょ?

 自分しか見つけることができないモノがあるって。

 このゲームはね。プレイヤースキルだけでなく、プレースタイルによって最強を目指してもらいたいんです。好きなことをとことんやってたら、ゲームが苦手な人でも気づけば他を寄せ付けない力を身につけていた、って感じで――。

 あ……、あと、安藤といえばシナリオと言ってもらえますが、このゲーム、発見されることがないまま終わるものがあるかもしれないっていうくらい数多くのクエストを用意していますが、メインストーリーはありません。

 ……なので、ラスボスがいないんで、不定期に強いプレイヤーを選んで


 配信を見守っていた安藤のファンは、好々爺とした無邪気な笑顔とともに発せられていく言葉のひとつひとつに大きく反応していたが、最後にさらっと語られた要素にはひときわ大きな反応を見せ、好意的に受け止めたようである。


 そうして、発売直前、ひとつの告知が専用サイトに載せられた。



――運営からのお知らせ――


【魔王イベント開催決定】

 開催時期未定。


 運営によって選抜された魔王プレイヤーに挑み、見事、勇者となって報酬をゲットしよう。

 魔王に挑戦するためにはイベント用ダンジョンをクリアする必要があります。また、参加費用としてゲーム内通貨で15万ゴールドが必要になります。

 ※参加費用は、開催時期によって増減することがあります。


 魔王プレイヤーは運営によって200名が選抜される予定です。

 また、専用の選抜イベントとは別に開催されるイベントで好成績を収めたプレイヤーは、優先的に参加する権利が与えられる場合もあります(選抜方法にかんしては非公開とさせていただき、問い合わせにもお答えできません)。


 魔王として見事な働きを見せたプレイヤーには、特殊スキルを取得できるチャンスもあります。


 更に、魔王に選ばれたプレイヤーの中から年に一度、プレイヤー投票によって8名を選び、大魔王を決めるイベントを実施したいと考えています。

 このイベントで大魔王として勝ち残ったプレイヤーには、特典として、新たに作製するオープニングムービーのメインキャラとして登場できる権利が与えられます。惜しくも、大魔王に勝ち残れなかったプレイヤーも、成績に応じて、このオープニングムービーに登場できます。


 イベントの詳細は、続報をお待ちください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る