【100話記念】 鳥山蘭華の夢 【微ラブコメ】

「鳥山さん?」


「お~い。鳥山さん」


「お~いって」


「……なんで人の机の上で寝るかなぁ」


☆ ☆ ☆


「鳥山さん! キスしようよ!」

「……えっ!?」


教室に入った私に、魚谷くんが、駆け寄ってきた。


普段なら、絶対に向こうから話しかけてなんてこないのに……。


し、しかも、キッスだなんて! ハレンチすぎるわよ!


「う、魚谷くん! 委員長として、あなたのそのエッチな行動は見逃せないわ! 生徒指導の先生に、言いつけてやるんだから!」

「……本当にいいの?」

「何が言いたいのよ……」

「これ、実は、鳥山さんが落としたの、拾っちゃったんだ」

「……それは!」


魚谷くんが手に持っているのは、ドキドキキッスムチムチ学園の三巻だった!


私が昨日、帰り道で買って、喫茶店に寄った時に、うっかり置き忘れてしまった漫画じゃない!


「落としたんじゃないわよ! 忘れたの!」

「自分のものってことは認めるんだね」

「……そうよ。悪い? 委員長が、そんなエッチッチな漫画読んでたら、軽蔑する?」

「しないよ。鳥山さんって、潜在的エッチだから……。いつかはこういうやらかしをするんだろうなって思って、ずっと尾行してたんだ」

「ストーカーじゃない! それは許されない行為! 警察に全面包囲! 母ちゃん泣いてるはよ出てこい! イエェイ!」

「素晴らしいラップだね……。さすが、学年一位の委員長さんだ」


ほ、褒められてる……。

魚谷くんに、褒められちゃってるわよ!


最高~~~!!!


って、なにが最高よ!

委員長として、強い態度を見せないと!


「返しなさい! 人の物を取ったら泥棒なのよ!?」

「確かに、僕は泥棒なのかもしれないね……」

「えっ……?」


魚谷くんが、ゆっくりと近づいてきた。


あっ、かっこいい……。イケメンのオーラに圧倒されて、私は身動きが取れなくなった。


そして……。


「……君の心も、きっと盗んでしまっただろうから」


そう言いながら、私の顎をクイっとした。


これがいわゆる、顎クイってやつなのね!?


されちゃった! されちゃったわよ私! うふぅう~~!!


「可愛いね……。鳥山さん」

「そ、そんなぁ……。ダメよ。私は委員長なの。あなたのことを、月に代わってお仕置しなきゃ……」

「お仕置、かぁ……。できるのかい? 蘭華ちゃんに」

「蘭華ちゃん!!!!」


突然の名前呼びに、鼻血がドバドバ出始めてしまった!


こりゃすごい! 蘭華ちゃんは破壊力抜群!


「もも、もっかい言ってちょうだい? 蘭華ちゃんって」

「欲しがりだなぁ……。でも、今日はダメだ」

「なんでよ! あなたの蘭華ちゃんが欲しくて、ムラムラしてしょうがないのに!」

「あっはっは! せいぜい苦しむがいいさ! 委員長さん!」

「くぅう~~!!」


悔しい……。でも、かっこいい!


こんな、夢みたいなシチュエーション……。


……夢?


「うっ!!!」

「ど、どうしたの? 鳥山さん」

「なんだか急にっ……! 頭が……!」

「大丈夫だよ鳥山さん。落ち着いて」

「んほぉ~~!!」


いきなり魚谷くんが、頭を撫でてきたせいで、鼻血の勢いが二倍になった!


ダメよダメよ! こんなに血を出したら、気を失ってしまうじゃない!


そんなの嫌! せっかく魚谷くんが、頭を撫でてくれているのに!


「やめてぇ! これ以上撫でないでぇ!」


『トリヤマサァン……!』


「な、なに!? 今の声は!」

「外から聞こえる……!」


魚谷くんと一緒に、窓の外を見た。


そこには……。


ものすごく大きな魚谷くんがいた!!!


『トリヤマサァン……! オキテェェエエエ!!!』


「あの怪獣、何を言ってるのかしら……」

「きっと、鳥山さんを、この世界から連れ去ろうとしているんだ!」

「えっ!? 嫌よそんなの! こんなに理想的な魚谷くんがいるっていうのに!」

「……鳥山さん。これを見てくれ」

「……なにこれ!?」


魚谷くんの体が透けてる……!


「嫌! どこにも行かないで! 消えないでよ!」

「そろそろ時間みたいだ……。あの怪獣が、この世界を終わらせに来たんだよ」

「どういう意味……? 待って魚谷くん!」

「鳥山さん。君と出会えてよかったよ。顎がちょっとザラザラしてたのは、昼食で食べたプリンが、垂れてしまったのを、拭き忘れたからかな?」

「いやぁああああ!!! 言わないでぇ!!!」

「さようなら! 鳥山さん!」

「魚谷くぅううん!!!」


魚谷くんが、消えてしまった。


『トリヤマサァン!! ソコハオレノツクエエエ!!!』


怪獣が、目の前まで迫ってきている。


私……。食べられちゃうの?


でも、魚谷くんに食べられるなら、別にいいわよね……。


私は静かに、目を閉じた。


『オキロオオオオオ!!』


怪獣が、大きな声で吠えたのと同時に、私は意識を失った。


☆ ☆ ☆


「はっ!」

「……やっと起きた」


放課後、夕焼けが差し込む教室で、鳥山さんが、ようやく夢の世界から帰ってきた。


「……魚谷くん。私は一体」

「朝から今まで、ずっと俺の机の上で寝てたんだよ。……迷惑ったらありゃしない」

「じゃ、じゃあ。顎クイは?」

「顎クイ?」


……そう言えば、顎クイぃいい! とか、叫んでいたような気もする。


「はぁ……。全部夢だったのね。そうだと思ったのよ。魚谷くんが、私に対して、あんなに優しいわけないもの」

「はいはい。もう起きたから、俺は帰るよ」

「ちょっと待って!」

「……なんでしょう」

「私、どうして魚谷くんのジャージを羽織ってるの?」

「……さぁ」

「もしかして……。眠っている私の体が冷えないように?」

「さぁね」


俺はカバンを持って、教室を後にした。


「待ってよ!」


しかし、鳥山さんが追いかけてきた。


「……どうせなら、魚谷くんが三日くらい裸で着た状態にしてから、私に羽織らせてほしかったんだけど」

「……」


……どうやら、俺と鳥山さんのラブコメが進展することは、無いらしい。

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