第781話 逃がしません!!
ソフィーはヴァレーの依り代二体と戦っている。傷だらけの本体は休んでいて動いていない。金髪の獣人はソフィーの依り代とフィネが戦っていて優勢だ。手助けする必要はないだろう。
呪われた聖剣を消して、通常の人間の腕から聖剣を創造。『ヒール』で折れた腕を回復させる。
手を動かしてみるが違和感はない。
思っていたとおり動けそうだ。
魔力は節約してきたつもりだが、ギフト能力を何度も使っているため半分近くになっている。デカい攻撃をするとしても一回か、二回が限度だ。
聖剣はソフィーたちの邪魔になるかもしれないですぐに消す。
少し悩んだが、継続戦闘能力が上がる呪われた炎の剣を創造した。刀身は波のようにうねっていて真っ直ぐに伸びていない。赤黒い線が走っていて血管のように脈動している。
俺の脳内に呪詛が流れ込んでくるが、抵抗して耐える。周囲にいる生物の生命力を奪い取って俺の体力を回復させてくる。俺は体調が良くなり、呪いに耐えている教会騎士たちの顔色がさらに悪くなってきた。表には出ていないが、ダンジョンマスターや獣人も同様に生命力を奪っているはずだ。
奪う対象は選べないため味方に人間がいたら使えないが、今回はアンデッドしかいない。状況はピタリとハマっている。
俺が存在しているだけで、戦況は有利になっていくだろう。
「さて、誰と戦うか」
教会騎士や貴族のブルペルドは、そのうち生命力を吸い尽くすだろうから放置だな。
ソフィーやフィネは激しく戦っているが、勝てる見込みは充分にある。少なくとも負けることはないだろう。
であれば、回復中の本体を邪魔するのが一番か。
ヴァレーと目が合った瞬間に飛び出し、呪われた炎の剣を突き刺そうとするが、横に飛んで避けられてしまった。反撃とばかりに蹴りが迫ってくる。ケガの影響もあって目で動きはとらえている。刀身を間に滑りこませて膝の中程まで切り込んだ。
「ぐっ」
悲鳴を上げなかったところは流石だと思ったが、耐えるのは無意味だ。刀身は肉体に癒着し、足を引いても抜けず、その間にも生命力を奪い取っている。このまま魔法を叩き込んで押し込もうと思ったのだが、ヴァレーが炎のブレスを出してきたので、呪われた炎の剣を引き抜きながら跳躍して回避した。
着地と同時に、玉座の間から出ようとするヴァレーの姿を捕らえた。
「逃がしません!!」
ソフィーが叫ぶと出口にヴァンパイアナイトが出現した。転移させて呼び寄せたのだ。フィネの呪いが広がっているため消滅は免れている。
剣を振るってヴァレーに攻撃を仕掛けるが、爪によって刀身を弾かれてしまった。
しかし足は止まっている。追いつけそうだ。
走り出そうとすると、視界の端にソフィーと戦っていたヴァレーの依り代が近づいているのが見えた。拳を呪われた炎の剣で拳を受け止める。
「前に戦ったより動きが鈍いな」
生命力を奪われていると言うこともあるだろうが、それだけじゃ説明できないほどの弱体化を感じる。
依り代を同時に動かすのは負担が大きいのか?
それとも本体とあわせて動かしているからか?
またはようやく生命力を吸い取る呪いの効果が出てきたのか?
原因はいくつか思い浮かぶため、罠である可能性は低い。
倒すなら今だ。
呪われた炎の剣に魔力を注ぎ込み、生命力吸収の力を最大にする。
接触していた依り代の拳を起点として急速に体内の水分が抜かれ、腕、体といった順番で骨と皮だけになっていく。たった数秒で破壊できてしまった。
想像していた以上の能力を発揮したが、消費する魔力量は尋常じゃない。二度目を使う余裕はなさそうだが、ヴァンパイアナイトと共同であればなんとかなるだろう。
ヴァレーの背中を狙って呪われた炎の剣を振り下ろす。気づかれてしまったが、ヴァンパイアナイトが抱きついて動きを止めてくれた。
「がぁぁぁ!!」
肩から胸辺りまでヴァンパイアナイトごと斬り裂いた。
ようやくまともなダメージを与えられたようだ。
「仲間ごと斬るだと?」
「お前を殺すためなら何でもするさ」
人間ならともかくアンデッドだし、ソフィーとダンジョンを守るためであれば、この程度の犠牲は許容範囲内だ。
このまま体を切断しようと力を入れていると、後ろから迫ってくる気配を感じた。
「マスター! 今すぐ助けに行きます!」
フィネとソフィーの依り代コンビと戦っていた金髪の獣人が見えた。全身痣だらけで顔色が悪い。肌も黒くなっていて一部の体が腐り始めているようだ。
走って近づいているのだが、ソフィーの依り代が黒い槍を放ち、串刺しにした。手を伸ばしながら届くことはなく、金髪の獣人は絶命する。
残っていたヴァレーの依り代も既に破壊されているようで、ダンジョンマスター陣営で残っているのは本体だけ。
「お前の負けだ。大人しく降参しろ。悪いようには扱わない」
他のダンジョンマスターとつながりがないため、俺たちは圧倒的に情報が不足している。リカルダに聞いても素直に答えてもらえるとは思えず、生け捕りにできるのであれば、聞きたいことは山のようにあるのだ。特に魔法が得意なダンジョンマスターについては、ソフィーの歪みを正すため最優先で知りたい。
そう思った瞬間、ズキンと頭が激しく痛む。
『生者を呪え、命を奪え、大地を死で満たせ』
炎の剣から呪いの言葉が直接、頭に叩き込まれた。
魔力が切れかけていて上手く抵抗できない。
心が憎悪に蝕まれていく。
ヴァレーから剣を引き抜くと、よろけながら数歩後ろに下がる。体が勝手に動くような感覚だった。
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