第780話 その剣の力か?

 切っ先が口内にまで侵入したが、歯で噛まれてしまいそれ以上は進まない。抜くこともできず、ピタリと止まったままだ。


「砕けると思ったんだが、特別製か?」


 刀身を噛んだまま器用にしゃべりやがった。


「そうかもな」


 破壊された部分は魔力で修繕しているため、破壊は不可能である。


 ミスリル程度であればたいした魔力は使わないので何時でも耐えられるだろう。


「ん? ……その声、クライエンか!」


 噛んでいた刀身を解放するとヴァレーは後ろに下がった。


「アンデッドのダンジョンマスターを助けるなんて、気でも触れているのか?」

「人間と手を組んでダンジョンを攻めてくるお前に言われたくないな」

「だが、効果的だろ?」


 教会が秘蔵していた魔道具の効果を体感したからこそ、否定はできなかった。玉座の間周辺はともかく、呪われた城全体は今もなお、本来の力を発揮できずにいる。生き残っているヴァンパイアナイトが近づけないほどだしな。


 フィネが呪いの力を最大にすれば話は変わるが、肩で息をしているようじゃそれも望めないだろう。


 少しだけでも無効化できただけマシだと思おう。


「本体と戦う前の準備運動としては悪くねぇ。この前見せた武器を使って戦おうぜ」


 手をクイクイと前後に動かして、かかってこいと挑発された。


 この場で聖剣を使って呪いの効果を薄めたら最悪なので、使うのであれば炎の剣か? いや、ここはアンデッドの腕経由で聖剣を創造しよう。


 視線だけでフィネに手を出すなと伝えると、ギフト能力を使って真っ赤な聖剣を創造した。刀身から悲鳴のような声が出ていて周囲に呪詛をばら撒いていてる。呪い対策をしているヴァレーや教会騎士たちは今の所、影響なさそうだが、直接斬りつけたら突破できるかもしれない。


「この前の剣よりヤバそうだな。楽しくなってきた!」


 前方にいたヴァレーの姿が消えると、右側から殺気を感じたので呪われた聖剣を間に滑り込ませる。刀身に激しい衝撃を感じて数歩下がってしまった。敵の姿はない。どこにいるのかなんて探す余裕はなく、直感に従って振り返りながら呪われた聖剣で攻撃すると、ヴァレーの拳が下から上に振るわれ、刀身の腹に当たって腕が跳ね上がる。


 反撃が来ると予想されていたようだ。


 体はがら空きである。


 ヴァレーの口が開いた。炎のブレスを吐くつもりだ!


『魔法障壁』


 俺の周囲に膜が張られたのと同時に炎が襲ってきた。直接殴られるより威力はないようで、防御は突破されないが、数秒ほど視界が完全に奪われてしまう。


 ブレス攻撃が終わると敵の姿はなかった。俺の近くにいる気配はない。


「パパ!!」


 フィネの声がした方を向くと、ヴァレーに首を掴まれて壁に押しつけられている姿が見えた。


 こいつは正々堂々と戦うのが好きなように見せて、卑怯な手段を使う相手だったのを思い出す。


 ボキと音が鳴ると首が折れてフィネの力が抜け、俺のほうへ投げ捨てた。


 うつろな目が俺を見ていて意識は完全に失っている。骨が折れた程度じゃ存在は消えないが、修復しなければ動けないだろう。


「娘を破壊された気分はどうさ?」


 挑発目的の言葉を無視して呪われた聖剣に意識を集中させると、ギフト能力が使い方を教えてくれる。対アンデッドの能力が反転して恩恵を与えてくれるようだ。


『リペア』


 種類としては暗黒系統になるのだろうか。アンデッドの破損した部分を修復してくれる魔法だ。


 首が元に戻ってフィネが手を突いてゆっくりと立ち上がる。


「大丈夫か?」

「うん」


 いつ襲われてもいいように、フィネを背に隠しながら呪われた聖剣を構えると、ヴァレーから笑顔はなくなって真面目な顔になっていた。


「今のは、その剣の力か?」

「教えるつもりはない。それに……」


 視線を上に向けると、思っていたとおりヴァレーも続いた。


「メインデュッシュの時間だ」


 ソフィーが転移してきた。本体だけじゃなく依り代の一体を引き連れているようで、ヴァレーの左右を挟むような形で立っている。本体との同時操作は難しいと聞いていたが、意外とできるもんなんだな。


 上から来ると思っていたため動きが遅れ、ソフィーはヴァレーの両腕を掴んだ。


「お前っ!? 卑怯だぞ!」


 こいつにだけは言われたくないと思いながら、ソフィーが作ってくれたチャンスを活かすべく全力で近づき、呪われた聖剣を胸に突き出して左胸を貫く。手応えはあった。


 だがこの程度でダンジョンマスターが死ぬとは思えないので、刀身から呪いを注ぎ込もうとする。


「ぐはっ」


 何が起こったか分からないが、俺は激しい痛みを感じて床に転がっていた。右腕が折れて動かない。先ほどまでいたところを見ると、金色の犬耳と尻尾を持つ獣人が立っていた。


 体内に保有している魔力量からして特別な個体だというのはわかる。ヴァレーの側近という所か。


 依り代のソフィーが金色の獣人と戦いを始め、本体のほうは俺の近くに来てくれた。


「ケガは大丈夫ですか」


 悔しそうな顔をしているのは、自分の力で回復できないからなのかもしれない。


 生者と死者の隔たりを嫌でも感じているのかもな。


「腕が折れただけだ。心配しなくていい」

「……許せません」


 ソフィーから人を殺すほどの呪いをまとった魔力が放出され、ヴァレーの目の前に転移すると顔面を殴りつけた。まともに食らったようで、玉座の間の壁に叩きつけられる。動けないところを狙って、ソフィーは持っている杖を全力で振るって腹にぶつけると、ヴァレーは血を吐いた。


 さらにもう一撃かまそうとしたところで、玉座の間にヴァレーの依り代が二体も入ってきた。こいつも同時操作できるのか!


 いや、ダンジョンマスター歴はソフィーより長いだろうし、驚くのではなくできると予想するべきだった。


 本体を助けるべく、ヴァレーの依代はソフィーの本体を殴りつけ、乱戦になっていく。

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