第779話 親子ごっこは終わりか?
「死ねぇ!!」
兵が剣を振り上げながら飛び込んできたので、すれ違いざまに腕を切り落として無力化する。残りの二人は左右に分かれて同時に攻撃してきたので、『魔法障壁』で防ぎ、至近距離から『エネルギーボルト』を叩き込む。頭が半分吹き飛んだので即死だ。
経験豊富だといっても俺の敵じゃなかった。
教会騎士はフィネと戦っていて、こちらに来るつもりはないみたいだ。不利な状況でもアンデッドが憎いのは変わらずで、連携を取るつもりはないらしい。
人狼どもの半数は俺のほうに来たので、攻撃を避けながら剣を振るって数を減らしていく。廃墟の町で戦った個体と同じぐらいの強さだ。人間を生け贄にして作りだしたにしては弱すぎる。いや、そもそもだが、なぜヴァレーの姿がここにないんだ?
今さらだが敵のダンジョンマスターがいないことに気づいた。
同盟を組んだ貴族のブルペルドは不敵に笑っている。
「気をつけろ! ダンジョン――」
警告は少しばかり遅かった。
天井に穴が空いて人狼のヴァレーが落下してきた。
着地する場所はソフィーの背後だ。
助けようと動こうとするが、戦っている人狼が邪魔で間に合わない。とっさの出来事にフィネは唖然としている。
振り返りながらソフィーは反撃の魔法を放とうとするが、間に合わずヴァレーの腕が左胸に突き刺さり、そのまま貫かれる。手には心臓があった。
「油断しすぎだぜ」
グシャリと心臓が握りつぶされ、血が飛び散った。
ソフィーの体がボロボロと崩れ去っていく。何も残らなかった。
「ママー!」
怒りで我を忘れたフィネが全身から呪いを発生させた。魔道具の効果を上回ったようで、玉座の間全体に広がっていく。
教会騎士たちは一箇所にまとまって呪いに対抗する魔法を使い、貴族のブルペルドはちゃっかりと守ってもらえる位置にまで移動していた。
俺を襲っている人狼どもの動きは遅くなったので首を刎ねて斬り殺して、ヴァレーに飛びかかろうとしていたフィネを抱きしめた。
「パパ邪魔しないで! ママが!」
「落ち着け! あれはソフィーだが違うんだ!」
「……どいうこと?」
ゾッとするような冷たい目を向けられた。
望まぬ答えを出せば、父親と慕っている俺ですら殺すだろう決意を感じる。
乱入してきたヴァレーを見ると、腕を組んで見ているだけ。随分と余裕があるみたいだ。
「アンデッド同士が親子ごっこか? 滑稽だな」
俺が人間だと気づいていないヴァレーが煽ると、フィネが飛び出そうとしたので抱きしめている腕をさらに強くした。
「パパ!」
「挑発に乗るな。俺たちの関係を他人がどう言おうが関係ない。お互いが大切だと思い合っていることに価値がある。そうだろ?」
「そう、だけど……」
少し落ち着いたように見えた。説明するなら今だ。
「先ほど倒されたのはソフィーの依代だ。本物は元気だから冷静になるんだ」
「依代……あ、そっか。戦う前にママが言ってたのを思い出した。ダンジョンマスターにはそんな能力があったよね」
パッと笑顔になったフィネは俺から離れると、呪いの放出をさらに強めた。
生き残りの人狼は地に伏せて泡を吹いている。もう戦えないだろうし、少ししたら絶命するはずだ。一方のヴァレーは何も感じてないように見える。
「なんだ。親子ごっこは終わりか?」
腕を組むのをやめてヴァレーは腰を落として構えた。
尋常ではないほど魔力の高まりを感じる。人狼は肉体強化が得意な種族であり、ダンジョンマスターにでもなれば相当なものになるだろうが、上がり方が尋常じゃない。俺の想像を上回る。
「お前、もしかして本体できたのか?」
「ダンジョンマスター同士が戦えば最後は本体の潰し合いになるんだ。俺は無駄なことが嫌いだから依代なんてつかわねぇ」
一定の説得力はあるが、だからといって依代の使用を放棄するダンジョンマスターがいるとは思わなかった。
本体は依代とは比べものにならないほどの力があり、俺とフィネだけでどこまで戦えるかわからない。
「早くソフィーを呼んだほうがいいぞ」
警告したと思ったらヴァレーの立っていた床が砕け、俺の目の前に現れた。
とっさに『魔法障壁』を使ったが割られてしまい、黒い鎧に強い衝撃を受けて壁にまで吹き飛んでしまう。
「ガハッ、ゴフォ、ゴフォ」
口から血が出て咳き込みながらヴァレーを見ると、片足を上げている状態で立っていた。全く見えなかったのだが、蹴られたようだ。
俺まで攻撃され、怒りで我を忘れたフィネは殴りかかっているが、すべて弾かれてダメージは与えられていない。
それでも攻撃を続けていると、城内に量産された死体がむくりと起き上がる。ヴァレーに飛びかかって足や腕、体を掴んだ。魔道具の効果が薄れたので、死ぬとアンデッドになる城の呪いが発動したのだ。
ゾンビはすぐに吹き飛ばされてしまうが、時間稼ぎとしては十分だ。フィネの蹴りがヴァレーの鳩尾に突き刺さる。
「少しは痛いな」
鉄なんて容易に破壊できる威力があったはずなんだが……。
鎧を着なくても毛皮があれば高い防御力を維持できるのか。さすが本体だ。
大量のゾンビが玉座の間に入ってきてヴァレーに飛びかかっていく。拳を振るうだけで数十体が吹き飛んでいって敵にすらなっていない。
本体を殺すには、俺たちが攻撃しなければいけないようだ。
ゾンビの影に隠れながら静かに移動をすると、ヴァレーの背後に回ってミスリルの剣を突き出す。狙いは大きく開いている口だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます