第778話 邪魔だぁぁあ!!
城壁の上で様子を見ていた俺は魔弓を創造して矢を番える。狙いは球体の魔道具を持っているブルペルドだ。
発動させる前に壊す!
威力よりも速度を優先して放つ。狙い違わず頭に向かっていくが、運悪く破壊されたスケルトンの一部が間に入ってしまい、軌道が変わってしまう。隣にいた護衛騎士の胸に突き刺さった。金属鎧を貫いて心臓を破壊しているが、標的は生きている。
驚きながらもブルペルドは俺を睨みつけてきた。
「誰かあそこにいるアンデッドを倒せ!」
数体の人狼が向かってきた。城壁に取り付くと爪を石に食い込ませて登ってくる。
階段なんて不要なようだ。
魔弓で射殺そうと構えるが、騎士たちが放った『エネルギーボルト』が迫ってきたので、横に飛んで回避する。
ヴァンパイアナイトは人狼と人間に絶え間なく襲われて動けない。配下のアンデッドは出てくるたびに教会騎士の『ターンアンデッド』で消滅していて、助けは期待できないだろう。
時間切れだな。
「撤退しろ!!」
反応できたのはヴァンパイアナイトだけだった。腰の部分に蝙蝠の羽を生やすと急上昇して戦場を離脱する。王城よりもさらに高い位置にまで行ったので、魔道具の直撃は避けられるはずだ。
「古の聖女よ! 我に力を貸したまえ!」
騒がしい戦場で野太いブルペルドの声だけがクリアに聞こえた。
球体の魔道具が割れ、強い光が周囲を照らして視界を奪う。戦場を監視しているソフィーたちも一時的に俺たちの姿を見失ったはずだ。
周囲が聖なる空気に包まれる。聖女の中でもトップクラスだったソフィーの魔力を超えるほどで、周囲にいたアンデッドが完全消滅したのは当然のこと、城にかけられていた呪いすら消えている。
ダンジョンの機能で転移してきたレイスは、広場に出現したのと同時に消え去ってしまう。魔法の効果は今もなお継続しているようだ。
「教会の力があればアンデッドなど恐るに足らん! 全軍、城内に侵入し、魔王ソフィーを討伐せよ!!」
ブルペルドの命令によって人間と人狼が一斉に城へ入って行った。俺は襲ってきている人狼を相手しているため邪魔はできない。
魔道具の効果は内部にも影響があるだろうし、ソフィーやフィネは全力を出せない状態になっているだろう。助けに行かなければ。
「邪魔だぁぁあ!!」
炎の剣を創造して人狼を斬り殺す。
一分も立たずに全てを燃やして殺すと城壁を飛び降りた。
広場にはナージャとバロルドの二人だけが残っている。魔道具が効果を発揮している今、用済みってことなんだろう。戦いが終われば使い物にならなかったと処分されるか? それともまた別の目的に使われるか? どうなるかはわからないが、幸せになれるとは思えなかった。
殺気を抑えることなく、城内へ入る前に二人へ近づく。
「ヒィ」
短い悲鳴をあげてナージャがバロルドに抱きついた。お互いに腕を体に回して身を寄せ合っている。俺が目の前に立つと、恐怖で体に力が入らなくなったのか、二人ともぺたりと座り込んでしまった。
「ダンジョンにさえ入ってこないのであればもう襲わない。遠くへ逃げろ」
「……また助けてくれるのですか?」
涙を流しながらナージャが震える声で聞いてきた。
「違う。見逃すだけだ。この幸運が続くと思うなよ。わかったな?」
「は、はい!」
コクコクと何度も首を縦に振ったので次に出会ったら死ぬぐらいは思ってくれただろう。
「このご恩は忘れません」
二人とも立ち上がれてはいないが、頭を下げてお礼を言ってくれた。
素直な性格でさらに好感を持ってしまう。どうしても他人事とは思えないので幸せに生きて欲しいと思ってしまうのだ。
応援の意味を込めてバロルドの肩を軽く叩いてから歩き出すと、甘くなった気持ちを引き締める。
これからは虐殺タイムだ。城に入ったヤツらは誰一人、生きて帰さない。ダンジョンマスターと教会の力を使っても俺たちは倒せないと、周辺国に知らしめなければならないのだ。
予想した通り、城の中に入っても聖なる空気は漂っていた。一階の警備を任せていた下位のアンデッドは完全に消滅している。上位がいたとしても同じ結果になったはずだ。それほど魔道具の力は強い。
廊下を歩いても、敵の死体が大量に転がっているだけだ。生き残りは上にいるのだろう。階段をのぼって二階、三階まで進むが姿は見えない。
遠くから悲鳴や爆発音は聞こえる。玉座の間で戦っていそうだ。
「上か」
急いで駆け上がって四階に着くと、人間と人狼の死体が床を埋めるほど転がっていた。外傷はないので呪い殺されたのだろう。
死体を踏みながら長い廊下を走っていくと、王座に繋がるドアが見えてきた。破壊されていて中から声が聞こえる。
「なんだあの幼女は!?」
「悪魔だ! 助けてくれ!!」
「勝手に逃げるな! 戦え!!」
誰か逃げ出したようだ。ミスリルの剣を創造して待ち構えていると、騎士らしき男が飛び出してきたので斬りつける。奇襲が成功して一刀で首を切り落として殺せた。
続いて二人ほど出てきたので『ファイヤーボール』をぶつけて吹き飛ばすと、ソフィーたちがいる玉座の間に戻ってゴロゴロと転がっていく。爆発によって腕や足が吹き飛んでおり、生きているが瀕死の状態だ。即座に『ヒール』で回復しなければ死ぬだろう。
死体を踏みつけながら玉座の間に入る。
教会騎士が十、人狼が二十ぐらいだろうか。プロイセン王国の兵たちは数人ぐらいしかいない。後は貴族のブルペルドもいた。他は全滅したのだろう。全員が俺を見ている。
「背後の敵は我々が受け持ちます! ブルペルド様は隙を見てお逃げください」
貴族を守っていた兵の一人が襲いかかってきたので『エネルギーボルト』を放ってけん制すると、剣で弾き飛ばされてしまう。
フィネがいる場所にまでたどり着いたこともあって、実力はありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます