第777話 さっさと浄化しなさい

 城壁の上に一人立っていると、人狼軍が城門までやってきた。


 鉄製の扉は開いていてアンデッドたちもいないため侵入を邪魔するものはない。止まることなくなだれ込んでくる。


「ダンジョンマスターを探せ! 殺すんだ!」


 趣味の悪い金色に輝く鎧を着ている人狼が指示を出していて、あれが司令官だというのはすぐにわかった。


 狙って殺すこともできるが、あえて腕を組んで眺めている。


 人狼たちはパーティーの準備していた広場を破壊しながら中に進んでいく。全体の半分ぐらいが侵入してきたか。


「ようこそ魔王の城へ。歓迎してやろう」


 俺の関係の言葉を出すとフィネが城の機能を解放して呪いを強めた。黒い鎧に守られているため人間の体でも耐えられているが、人狼たちは喉を抑えながら体を丸めてバタバタと倒れていき、泡を吹いて痙攣すると動かなくなる。


 ヤンのダンジョンを攻めにきているのだから呪いに耐性のある装備を揃えてきただろうに、まったく役に立たなかったようだ。呪われたギフト能力が上回ったのである。


 眺めている間に『クリエイトアンデッド』の効果が発動したようで、倒れいていた人狼たちが立ち上がった。ゾンビ化したのだ。


 死体になったのであれば、俺たちの味方である。

 

 フラフラと足元がおぼつかない様子で城門をくぐって外へ出ていくと、攻め込もうとしていた人狼軍に襲いかかる。


 ゾンビ人狼は遠慮なく噛み付いていくが、死体とはいえ味方を攻撃するは嫌なのだろう。戸惑っているようで反撃は少ない。


「死者を愚弄するなんて許せない! 卑怯だぞ!!」


 それはこちらのセリフだ。耐えきれなくなって叫ぶ。


「俺たちの平和を乱すお前たちの方が卑劣だ! 侵略してきた報いだと思って受け入れ、大人しく仲間の手で死ね!」

「魔王ソフィーは存在自体が悪です! 正義は我々にあるんだ!」


 反論してきたのは人狼軍に合流した人間の中からだった。城内で暴れている間にやってきたのだろう。


 教会騎士や戦闘司祭、町で見かけた貴族の男も戦場に来ているようである。


「聖女ナージャよ、さっさと浄化しなさい」

「は、はい!」


 バロルドと一緒にいた女性、ナージャが『ターンアンデッド』を使用した。ゾンビ人狼たちは光に包まれて瞬時に消えていく。


 人狼側は聖魔法を期待して人間と手を組んだんだろう。だから貴族の男とヴァレーは嫌がる聖女と護衛の勇者を引っ張り出し、教会の力も借りた、と。


 金や立場、権力があるからといって何でもしていいと勘違いしている。まったく迷惑な奴らだ。


 聖女ナージャとバロルドを中心に人狼と人間の合同軍が城に侵入してくる。呪いの効果は『サンクチュアリ』による魔法で無効化されているため死ぬようなことはない。


 ここは流石ソフィーの後輩と、褒め称えておこう。


 合同軍が広場にまで来ると進軍は止まって、城壁の上に立つ俺の方を向く。


 城内に侵入するよりも戦うことを優先するようだ。


「大人しく投降するなら魔王ソフィー以外は見逃してやる!」


 プロイセン王国の貴族がバカなことを言ったが無視して上空を見る。剣を持ったヴァンパイアナイトがいた。


 目が合ったと感じた。


 地面に降り立ったので、今度はヤツに任せてみよう。リッチのような醜態を晒すなよ。


「死んでソフィー様の糧になれ」


 ギリギリ目で追えるスピードで、ヴァンパイアナイトがプロイセン王国の兵を次々と斬り裂いていく。教会騎士や戦闘司祭もいるようで、聖魔法で反撃してくるが抵抗して効いていない。『ターンアンデッド』までも無効化している。


 ダンジョンの機能で作ったリッチは思ってたよりも弱かったが、死体から作った特別製の性能は比べものにならないほど高い。


 素材と製造過程によって違いが出たと思っていい。


 ダンジョンの機能は便利だが、その分だけ質が落ちるとわかったのは大きな収穫だ。今後も特別な個体は、時間をかけてでも素体を探してソフィーの手でアンデッド化させよう。


 謎多きダンジョンについて考察を進めている間にも戦場は大きく変化していた。


 ヴァンパイアナイトに任せていたアンデッドたちが広場に集まっていて合同軍を襲っている。教会騎士たちが『ターンアンデッド』を使って消していっても、数は減るどころか増えている。今まで作ってきたアンデッドたちを総動員していることもあって、物量で押しつぶせそうだ。


「聖女様! 聖魔法でお助けください!」

「どうしてこうなっているの!? 私たちは戦わなくて良いと言われたのに!」


 事態を好転させられるナージャは、『サンクチュアリ』の魔法を維持しながらもバロルドにしがみつきながら泣きわめいていた。無理やり連れてきたからこうなるんだよ。心が折れた兵なんて使い物にならない。復活は難しそうだ。


 こいつらに奥の手はあるのだろうか。


 様子を見ていると貴族の男が青白い球体を取り出した。


「私に任せろ!」


 聖魔法の力が込められているのかアンデッドたちは後ずさりすると、人狼が反撃に動いて襲い出す。


 あれはそこら辺で手に入る魔道具じゃない。


「ブルペルド様! それは?」

「代々の聖女が魔力を込めた聖魔法が封印されている! これでアンデッドを消滅させて見せよう!」


 国宝レベルのものだ。そんなのを持ち込みやがったか。ダンジョンマスターと手を組んだことといい、今回の侵略ですべてを終わらせようとする強い意思を感じる。


 だが悪いことばかりじゃない。守り切れれば、しばらくの間プロイセン王国は俺たちに手を出す余裕はなくなるだろう。

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