第776話 魔法を使えばなんとかなるだろ
ヴァンパイアナイトにソフィーとフィネの守りを任せて、俺は城壁の上に立っていた。
近くにはスケルトンアーチャーが数百ほど並んでいて、魔法使い要員としてリッチが一体待機している。遠くには人間と人狼の合同軍が見える。どうやったかわからんが無事に国境を越えて攻めに来たらしい。今の移動速度を維持できるのであれば、数時間後には到達するだろう。
「ラルス様。これからどうされますか?」
ボロボロのローブを身にまとったリッチが聞いてきた。ダンジョンの機能を使って生み出したので戦闘経験はまったくない。今はソフィーの命令によって、生者である俺を上位の存在として扱っている。
本来なら人間を実験動物扱いするほどの残虐性を持っているのだが、表に出すことはなく大人しく、フードの下にある光る眼光は俺の顔をじっと見ている。
「もう少し近づいたら単身で飛び込め。相手の戦力を把握するんだ」
「魔法使いの私に接近戦をしろと?」
不服だったのだろう。体が凍てつくんじゃないかと錯覚するほど冷たい声だったが無視する。命令には逆らわないが盲目的ではないし、感情は別ってことか。
ま、この程度の圧にビビるほど俺は未熟じゃない。
「お前ほどのアンデッドなら、人間ごときどうとでもなるだろ」
「ふむ……」
考え込む仕草をしていたリッチだが、手に持っている木製の杖を高く掲げた。
「それでは、我が主人に授けていただいた魔法をお見せしよう!」
少しおだてただけで機嫌が良くなった。子供みたいな精神をしている。
上空にどでかい魔法陣が出現し、近づいてきた敵軍の進行が止まって警戒している。
遠すぎる。
弓どころか魔法だって射程外だ。
「何をする気だ?」
質問をしても答えは返ってこない。
上空にある魔法陣からは黒い霧が出てきていて、そろそろ発動しそうだ。
最悪、味方を巻き込むほどの大規模な魔法を使われることを想定して、『魔法障壁』を使って身を守りながら様子を伺う。
魔法陣からドラゴンの顔が出てきた。鱗や肉は存在せず骨の状態だ。口を大きく開きながら首、体、翼の順番で出てくる。
あれは死してなお強力な能力を持っているボーンドラゴンだ。
翼を羽ばたかせ城壁の上に着地すると、頭を床につけた。無言で乗れと言っているようだ。
「主人に特別な力をいただいた私が戦いに行き、ラルス様より役に立つことを証明しましょう」
特別、という部分をあえて強調した言い方に対抗心を感じる。高い知能があるゆえに道具以上の扱いを求めているのだろう。
執着先の俺と競っても勝てるはずないのに。無駄な努力をする。
決して報われない思いを抱えながらボーンドラゴンに乗ったリッチは、空を飛んで敵軍の方へ向かっていく。地上からいくつもの魔法が放たれてるが、『魔法障壁』によって直撃はしない。
ボーンドラゴンは口を開くと黒い火を吐き出していくが、敵兵も『魔法障壁』を使って防ぐ。一部間に合わずに焼かれてしまった人もいたようだが、軍全体から見れば無傷と言っていいだろう。
広範囲のブレスから守れるほどの魔法使いを用意しているのか。
ダンジョン攻略に選ばれただけあって兵の質は良い。
お互いに決め手がないまま戦闘は続行していると、一部の部隊が城のほうに向かってきた。魔力で視力を強化して装備を確認すると、金属製の鎧を着た人狼たちだった。全員同じ装備でガントレッドには長いかぎ爪がある。リッチも動きには気づいているようだが、魔法攻撃を続けている部隊の人間が邪魔をして追いかけられない。
「構えろ!」
手を上げて号令を出すと、数百に及ぶスケルトンアーチャーが矢を番えた。ギリギリと音が鳴るほど弦を引っ張って待機している。
戦闘の人狼が射程内に入ると走り出した。地鳴りが聞こえ、猛スピードで迫ってくる姿は恐怖心をかき立ててくるが、アンデッドしか存在しない俺たちには効かない。
腕を降ろす。
感情のないスケルトンアーチャーたちは、いつも通りの動作で弦から指を離した。
大量の矢が人狼の部隊の頭上に落ちていくが兜や鎧に弾かれてしまう。普通の武器じゃ傷をつけるのは難しそうだ。聖剣の一撃で一掃することもできるが、魔力に不安が残る今は対ヴァレー用に温存しておきたい。
「スケルトンアーチャーは城内に戻ってヴァンパイアナイトの指揮下に入れ」
返事はないが、無言で移動を開始したので命令は通じたのだろう。
攻撃が止んで不思議に思っている人狼ではあるが、すぐに進軍を再開する。
リッチが気になって視線を移すと、『フォース』と呼ばれる神の手で押しつぶされそうになる姿が見えた。ボーンドラゴンごと地面に叩きつけられている。
「プロイセン王国だけじゃなく教会まで手を貸しているのか」
教会の部隊が使った『フォース』の効果が切れると、ボーンドラゴンは地上で暴れて魔法部隊を壊滅状態まで持っていく。その間にリッチは宙に浮かんで逃げ出しやがった。
俺を飛び越えて城内に入っていく。大口を叩いていた割に役に立たなかったな。威力偵察の結果を報告しろよ。能力は高くても経験が少ないので役に立たん。
しばらくするとボーンドラゴンは動かなくなりボロボロと崩れ去った。人間の軍は深追いをするつもりはないようで、被害状況を確認している。
このまま立て直す時間を与えるのはもったいないな。
「ソフィー、聞こえていたら奥にいる人間の軍へアンデッドどもを送りつけてくれ」
すぐに異変は起こった。治療を始めている人間たちがいる地面から、大量のスケルトンやゾンビが這い出てきたのだ。数が多く全滅させるのに時間はかかるだろう。
これで人狼軍に集中出来そうだ。
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【あとがき】
この前の風邪がずっと続いていて体調が悪いため、昨日みたいに更新ができない日がでるかもしれません……。
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