第774話 見た目だけを模倣しているのか

 今日はフィネに、城でパーティーをしたいと言われてダンジョンにきている。


 呪いへの耐性がある黒い金属製の鎧と兜をつけていて、他人が見たら悪霊が動かしているリビングアーマだと思われることだろう。


 城門には剣と盾を持ったスケルトンが数体いて警備している。俺が通ろうとすると敬礼して歓迎してくれた。低レベルなアンデッドは知能がないはずで、生者の個別認識や決められた動作なんて教え込んでもできないはずなのに。フィネにそんな力があるとは思えないので、アンデッドクイーンの能力だろうか。


 能力の底上げなんてできなかったはずなんだが……まぁ、いいか。使えるんであれば問題はない。


 門を通り過ぎて中に入る。城の前にある広場には、白いクロスをかぶせたテーブルがいくつもあった。サラダや肉、パン、ワインといった料理がのせられていて、メイド服をきたゾンビたちが忙しそうに働いている。人間っぽい動きだ。門番として警備しているスケルトンといい、明らかに普通じゃない。


 疑問に思いながらも近くにあるテーブルを観察してみると、料理はすべて腐っていた。刺激の強い臭が漂っていて、さらに呪われている。食べれば体内が腐ってしまいそうだ。


「見た目だけを模倣しているのか」


 指でツンツンと触ってみるとボロボロと崩れ去り、それを見たゾンビメイドが新しい料理と代えてくれる。


 配膳ぐらいはできるのか。


 観察は、もういい。テーブルの間を縫うようにして歩いて進んでいると、真っ赤なドレスを着たフィネの姿が見えた。ルビーのネックレスやイヤリングもつけていて綺麗に着飾っている。ボロボロの布をまとっていたダンジョンマスター時代を知っている俺からすると、全く別人のように見えた。


「パパー! まだ準備中だからこっちきてよー!」


 手を振りながら走ってくると、抱きついてきた。


 勢いはなかったのでそのまま受け止める。


「元気みたいだな」

「そんなことより、どう?」


 褒めてもらいたいといった自慢げな顔で見ている。


 昔は敵対していたが今はソフィーと俺の子供……という設定だ。またヤンのダンジョンを守る味方でもあるため、期待に応えるべきだろう。


 魔物に気を使うことになるなんて、冒険者をしていたときの俺に言ったら笑われてしまいそうだな。


「上手くできている。王侯貴族のパーティーと遜色ないぞ」

「だよね!」


 腕を首に回されて強く抱きしめられた。グール特有の腐臭はしない。種族は同じでも存在としてのステージが違うから、より生者に近いアンデッドなのかもと思った。


「城の中も飾り付けしているから見に行こうよ」

「それもいいが、ソフィーはどこにいる?」

「ママは玉座に座っているよ」

「この城はフィネが創造したのに王様じゃないのか?」

「うん。パパとママのために作ったからね」


 俺が王でソフィーは王妃という扱いにしたいのか。


 フィネ自身も娘という立ち位置を認め、受け入れているようだ。


「するとフィネはお姫様、ってことか」

「そうなるのかな?」

「そうなるな」

「えへへ。嬉しい」


 最初は不安そうだったので俺が肯定したら、照れくさそうにしながらも喜んでいた。愛情に飢えている子供みたいだ。


「ではお姫様。王妃のところまで行きましょうか」


 膝の裏と背中に腕を回して抱きかかえると城の中に入る。恥ずかしがりながらも拒否はされず、玉座がある場所へ案内してくれる。


 一階はゾンビやスケルトンばかりだったが二階はレイス、リビングナイト、三階になるとリッチやヴァンパイアといった感じで魔物の強さと知性が上がっていく。配置に意図を感じたのでフィネに聞いてみると「輝きの弱いヤツは近づく資格がない」などと言っていた。


 なるほど。まったくわからん。


 独自の価値観で動くのは知能が高いアンデッド特有で、生者には一生理解できないだろうし、否定さえしなければ関係は破綻しないからそれで問題はない。アンデッドとの付き合いは妥協が重要なのだ。


 城の中には罠も多いらしく、落とし穴などのオーソドックスなものから体力や魔力を吸い取る魔法陣など多種多様だ。多すぎて口頭だけだと場所は覚えられないのだが、俺やソフィー含めて仲間が踏み込んでも発動しないようになっているらしく、罠があると知っているだけでよいらしい。気が利く。


 長々と説明されながらようやく四階に着くと、魔物はいなかった。罠も存在しないらしい。


「守りは薄いがいいのか?」

「ここはフィネたちだけの特別な場所だから、誰も近寄らせたくないの」

「敵が着たらどうするんだ?」

「殺す」


 声だけじゃなく呪いすらも籠もった言葉だった。強い決意を感じる。これもまた執着か。


「だったら俺も頑張らないとな」

「うん。一緒に戦おうね」


 ずっと俺を狙ってきた相手と共闘するのは不思議な気分だ。


 歩きながら四階の中心に行くと、巨大な扉に付いた。玉座の間らしい。近づくと思い音を立てながら自動で開く。


 長い通路の先に階段があって上には椅子が二脚。背もたれは長く赤い布がある。金の糸で聖剣の刺繍がされていて目をひいた。ソフィーは右側に座っていて俺を見ると微笑んでくれる。

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