第773話 ママどうしたの?

 呪われた炎の剣の力がわかったので、次は聖剣を創造しようとしたらソフィーが正面に現れた。黒い法衣服を着ていて手には赤い水晶が付いたロッドを持っている。機嫌良さそうに濁った目を細めながら俺を見ていた。


「ここにいたんですね。何をされていたんですか?」

「新しいギフト能力の確認だ」

「それがこの呪いですか?」


 植物が枯れた大地を見渡しながら、ソフィーは喜んでいた。


「まあな。思っていたより厄介な能力みたいだ。力の一部を開放しただけで周囲の生命力を吸い取って殺してしまう。近くに味方がいたら使えないな」


 アンデッドに効果はなさそうだが、生者に対しては無差別に生命力の吸収をしてしまう。コントロールは不可能で、人間同士の戦場で使ったら敵味方関係なく大量虐殺してしまいそうだ。


 ソフィーのブレーキ役だと思って生きてきたんだが、俺自身が殺戮兵器になるなんて冗談じゃないぞ。


「そうなんですか? もったいない。良い子なのに……」


 創造したままだった呪われた炎の剣を撫でながら、ソフィーは残念そうに言った。


「ソフィー」

「何でしょう?」


 しゃがんだまま顔だけ上げて俺を見ている。


 濁った目は変わらない。変色してしまった肌、白い髪もだ。生気を感じられないアンデッドであるのはそのままなんだが、これまで感じてきた変化に対して、僅かに期待している自分がいる。


「フィネが生まれてから少し変わったか?」


 返事はない。心臓がバクバクと音を立てている。ダンジョンマスターとの戦いでも感じたことのないほどの緊張感である。


 それ以上、何を聞けばいいかわからず黙って待っていると、ソフィーは呪われた炎の剣から手を離し、立ち上がった。


「どうしてそう思われたんですか」

「雰囲気が柔らかくなった。そう感じたんだ」

「アンデッドは成長しませんよ?」

「だが変化はする。そうだろ」

「…………そうですね」


 ソフィーは俺から離れて歩き出した。追いかけることはせず立ったままでいると、後ろで手を組んで振り返る。


 風が吹いて髪が揺れていた。


「確かに私の中で小さな変化はありました。恨みや憎悪、嫉妬といった感情が薄れているんです。自分でも不思議に思うほど心が落ち着いているんですよ」


 あぁ、よかった。

 希望は残っていた。


 本人も気づいているのであれば、俺の気のせいではない。アンデッド化による歪みが減っているのだ。混ざってしまったカーリンとシェムハザの魂を分離できれば、人間だった頃に戻れるとは思わないが、近づくこと可能であるかもしれない。


 だがあの二人は危険だ。フィネのようにアンデッドとして復活されたら困る。


 この前使った『シンセンス・アンデッド』は使わず別の方法で分離させなければならない。


「フィネの魂が出ていったからかもしれないな」

「そうですね。完全に混ざり合っていたと思ったんですが、抽出できるなんて不思議です」

「もしかしたら奇跡かもな」

「だったら素敵ですね。ようやく報われた気がします」


 濁った目に涙が浮かんでいるように見えたが、よく見たら勘違いだった。しかし、そう思ってしまうほどの空気を纏っているのも事実だ。


 人間らしい感情を取り戻そう。


 本当にできるかはわからないが、残りの人生を賭けるに相応しい挑戦だ。


「戦いが落ち着いたら旅に出ないか?」

「私はラルスさんと一緒ならどこにでも行きます」

「約束だぞ」

「はい。約束ですね」


 魔法が得意なダンジョンマスターに会えれば、魂を分離する方法の手がかりぐらいは見つかるだろう。


 対話ができれば良いのだが最悪は脅してでも手に入れてやる。


「不在の間、ダンジョンはどうしますか?」

「フィネに管理させよう」

「それはいいですね。あの子ならしっかりと運営してくれるはずです」

「そうだな」


 最悪判断に困れば、ソフィーから分けてもらったダンジョンマスターの能力を使えば連絡が取れる。敵のダンジョン外にいれば転移魔法で戻れるし、俺たちが離れても問題はないだろう。


 さっそく今の話を伝えることにしたみたいで、ソフィーの近くにフィネの映像が浮かんだ。


 通信の機能を使ったのだろう。


「ママどうしたの?」

「ちょっと話があるんだ。そっちに行っていい?」

「もちろん! 部下に歓迎の準備にさせるね」


 プツンと映像が切れるとソフィーは俺を置いて転移してしまった。


 母娘でアンデッド会議を開催しているのだろう。父親……役の俺は仲間はずれ。


 子供に取られた感覚といえばいいのだろうか。


 何があってもソフィーは一緒にいることが多かったから多少の寂しさは覚えた。


「実験を続けるか」


 気持ちを切り替えて炎の剣を消すと聖剣を創造する。


 聖魔法ではなく暗黒系の魔法が使えそうだ。属性反転は呪われた武器によくあることで、驚くべき事ではない。通常の聖剣のように特大な魔法も使えそうだが、ここで放ってしまえば島全体が呪われてしまうかも。実験するのであればダンジョン内だな。


 負けるわけにはいかないので、何が起こっても言いように何日もかけてギフト能力の検証を続けることにした。



=======

最初に実験した呪いの武器を聖剣→炎の剣に修正しました。


また「死んだら男女比1:99の異世界に来ていた」の3巻がもうすぐ販売するため、告知させてください!!


https://kakuyomu.jp/users/blink/news/16818093087781673688

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