第767話 想像にまかせる
「ダンジョンマスター同士の争いにどうして人間が関わっている?」
「お互いに邪魔な存在が一致しただけだ」
リカルダたちが参加している連合が許可を出しているか気にはなるが、聞いてしまえば俺がダンジョンマスターと関わりが深いとバレてしまうので沈黙を選んだ。
人間と魔物、その両方がソフィーの管理しているダンジョンを潰したいと思っているのは間違いないんだろうが、最終的な目的は違うはずだ。
ヴァレーはヤンのダンジョンを手に入れること。そして人間側はプロイセン王国が主導していることから考えてついでに領地の奪取まで狙っているだろう。教会はソフィーの消滅あたりか。
「俺の攻撃をしのいだ褒美はやった。さぁ、戦いを再開するぞッ!」
また姿が消えた。思考を中断して周囲を警戒していると魔力の揺らぎを感じる。その直後、目の前にヴァレー出現が出現した。
殴ることすらできないほどの至近距離で、噛みつこうとしてきたのだ。
あえて前に出ると抱きしめてやり過ごし、足を引っかけてバランスを崩し押し倒す。肘を首に密着させて体重を乗せていたのだが、骨を折ることはできなかった。人間なら即死だったぞ。どんだけ頑丈なんだよ。
追撃を警戒してすぐさま離れると、ヴァレーは咳き込みながら立ち上がる。
「ゴホッ、ゴホッ……転移の気配に慣れすぎている。どこかで別のダンジョンマスターと戦ったか?」
野生の本能が働いたのか。鋭いな。
俺は何度もダンジョンマスターと戦っているし、今は最愛の人がそのものだ。
何ができるのか、どんな制限があるのか、すべて知っているがこの場で言う必要はない。
「さぁな。想像にまかせる」
先ほど体術を使うときに魔弓を消してしまったので、今度は炎の剣を創造した。
本来の力を発揮させてしまえば俺の体すら焼いてしまうが、教会関係者の前で聖剣は使いたくないし、矢では威力が足りないので仕方がない。
「剣を呼び寄せた? いや転移の気配はなかった。何をしたかわからんが、クライエンも特別な人間というわけか」
鋭い牙をむき出しにしてヴァレーが凶悪な笑みを浮かべたと思っていたら、背後から攻撃される気配を感じたので振り返ると、配下の人狼が迫っていた。
爪による攻撃を避けつつ炎の剣で腕を切り飛ばし、腹に『エネルギーボルト』を数発叩き込む。至近距離だったということもあって、直撃すると吹き飛んだ。
気がつくと俺の周りは多数の人狼が囲んでいる。
虐殺し終わったみたいで生き残りは俺だけのようだ。
「勝てないとわかったら数で押しつぶすか。決闘が好みだと思っていたが、俺の思い違いだったようだな」
煽るように嗤いながらヴァレーを見た。
怒って襲ってくると思ったが意外と冷静そうだ。腕を組んで動かない。
「部下にヤられるぐらいなら、その程度の男だったと思うだけだ。生き残ってクライエンの強さを俺に見せろ」
その声が合図となったのか人狼どもが一斉に襲いかかってきた。
剣の力を部分的に解放すると刀身が炎に包まれ、円を描くように横に振るうと外に向かって伸びていった。
全身を毛皮でおおわれている人狼は燃えやすいみたいだ。近づいてきたヤツらは火に包まれて熱と息苦しさに耐えられず、地面を転がっている。無事だった人狼は警戒して近づいてこない。
「火を怖がるなんて獣と変わらないな」
煽ったら人狼たちは毛を逆立て、うなり声を上げ激怒すると、次々と飛び込んできた。『魔法障壁』で身を守りつつも炎の剣を振るって体を斬り、燃やしていく。威力は抑えているが全身はヒリヒリしていて軽度の火傷を負ってしまっているようだ。長くは使えないな。
最後に大きく剣を振るって炎の壁を作り出すと、魔力で身体能力を強化して半壊した家の屋根にあがる。
炎の剣を消して魔弓を創造する。
魔力の残量は約半分ほどか。
配下の人狼だけなら倒し切れそうだが、ヴァレーやバロルドまでは相手にできない。そろそろ撤退方法を考えなければ。
近づいてくる手下の人狼を矢で射って殺しつつ、屋根の上を移動していく。柱しか残っていない場合もあったが、足場ぐらいにはなっていくれたので地上には降りることなく外壁へ向かう。
あと数メートルで外に出る。
このまま逃げ切れると思ったのだが、次の足場に使おうと思っていた家が突如として崩壊した。
下を見ると地面が陥没している。魔法で穴を開けたようだ。
人狼は強靭な肉体を持っているが魔法は使えない。犯人は考えるまでもない。バロルドだ。いつの間にか俺の近くに移動していたようで、隣には教会の女と貴族らしき男の姿まである。
「魔物の手助けをするなんて勇者として恥ずかしくないのか!」
「うるさい! 俺はもう平和に暮らしたいんだ! さっさとくだらない戦いを終わらせてくれ!!」
涙を流しながら叫んだバロルドは、法衣服を着た女に慰められている。
ソフィーから逃げた後、心が折れてしまったんだな。それでも陰謀に巻き込まれるなんて哀れだと思う。境遇が少しだけ似ているので同情心がわきあがってしまった。
「泣く前に男を殺せ!」
貴族の男が命令したが、バロルドの動きは鈍い。
人狼との距離はまだある。この隙に貴族を射殺すかと?
数瞬悩んでいたら上空から巨大な禍々しい魔力を感じ、顔を上げればソフィーが見下ろしていた。手には真っ赤な水晶の付いた杖を持っている。
「帰りが遅いから心配になってきてみれば……何をやっているんですか?」
責め立てるような目で俺を見ていた。
ダンジョンから出ないようにと言っていたんだが我慢できなかったみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます