第763話 創造神を冒涜する非道な行為だ!
呪いの城が創造されてから数週間が経過した。
維持するためにかなりの魔力を消費しているはずなのだが、フィネはいたって普通だ。苦しんでいるようには見えず、本当に消費量は問題ないようだ。使用中は遠くには行けないようだが、それでも俺なんかより条件が緩い。ギフト能力だけは誰にも負けないと思っていたのだが、フィネはさらに上をいっていて強力な存在が味方になったと安心している。
フィネとアンデッドナイト。この二人がいればダンジョンの防衛はある程度任せられる。
予断を許さない状況ではあるが、人類側を偵察するぐらいの余裕はできたのだ。
戦争の結果が気になった俺は、調味料を購入するついでに国境を越えた近くにあるプロイセン王国の街に来ていた。
* * * * * *
いつもの黒い鎧ではなく、冒険者が好んで使う革鎧と鉄製の剣をぶら下げて市場を歩いている。俺が乱入した戦場から一番近い街だというのに、活気があって悲壮感は漂っていない。
戦争はプロイセン側が勝ったのだろうか?
気になったので香辛料を売っている中年の女性に声をかける。
「辛い粉を一袋分欲しい」
「銀貨三枚だよ」
手を出されたのでプロイセン王国で流通している銀貨を渡す。
「毎度!」
金を払ったことで、ようやく客だと思ってくれたようで笑顔を向けられた。
中年の女性は手際よく小さな袋に赤い粉を詰めていく。
「近くで戦争があったと聞いたんだがもう終わったのか?」
「あんたそんな身なりをしているから冒険者かと思ったけど、傭兵だったんだね」
「どっちもやっている」
「あぁ、そっちのタイプかい」
手を止めて顔を上げた中年の女性は、値踏みするような目で俺を見た。
「少し遅かったね。戦争は終わったよ」
「どっちが勝ったんだ?」
「引き分けと聞いているよ。最初は負けそうだったみたいだけど、強力な魔法で挽回したって噂だね。戦場には数え切れないほどの死体が大量に転がっているらしい」
あの状況から逆転負けするとは.。切り札はノンダスだけじゃなかってことか。
ローザに匹敵するかそれ以上の能力を持つ魔法使いは珍しいし、目立つ。貴族様たちが把握していなかったとは考えにくいので不意を突かれたんだろうな。俺が手助けしなければプロイセン王国側の完勝だっただろう。
「派手な戦いだったようだな。遅れたおかげで命拾いしたよ」
「かもしれないね」
臆病な発言が良かったのか中年の女性は機嫌良さそうに笑った。
辛い粉をたっぷりと入れてくれてくれたので袋を受け取る。
「面白い話が聞けて助かった。機会があればまた寄ろう」
「期待しないで待っているよ」
あっさり別れると市場を歩き出す。
夜は酒場で情報を集めるとして、昼間は街全体の様子を調べよう。まずは人の多い広場だな。
すれ違う人々の表情は明るい。路地裏には浮浪者がいるが、ある程度の規模になればどうしても発生してしまうものなので気にはならない。
あまりにも平和だ。本当にプロイセン王国側は負けなかったようだな。
十分ほど歩いて広場に着くと大勢の人が集まっていた。中心には貴族らしい男が立っていて演説している。
「魔王ソフィーは人類の敵である!」
「!?」
こっちで名前を聞くとは思わなかった。無視できない言葉で、立ち止まって腕を組みながら黙って聴くことにした。
「ロンダルト王国は魔王と手を組んで我々の国を侵略するつもりだ! 今すぐ手を打たなければ戦争で負けた時より酷い目にあうぞ!」
「どうなるんだ!?」
タイミングよく観衆の一人が声を上げた。
あれは仕込みか?
「生きたままアンデッドにさせられる! 創造神を冒涜する非道な行為だ!」
教会の教えを信じている人々にとって、アンデッドとは忌避する存在だ。魔物中でも最も汚れていると信じられているため、観衆に動揺と嫌悪感、恐怖、そして殺意が広がっていく。
「アンデッドになったら創造神様のもとに行けないじゃないか!」
「なんでそんな危険な存在を放置しているんだ!」
「バカだな。さっき言ってただろ。ロンダルトのクソどもは、魂を売って手を組んでるんだよ!」
「だから戦争を仕掛けてきたんだな!」
「許せねぇ! やられる前にやっちまえ!」
俺は創造神を信仰していないのでアンデッドへの忌避感はないが、普通の人々ならこういった反応も理解はできる。
「そのとおりだ! ロンダルト王国ごと魔王ソフィーを滅ぼすべきである!」
観衆は歓迎していて耳が痛くなるほどの声をあげて叫んでいる。
敵はロンダルト王国と各国で認定された勇者ぐらいだと思っていたのだが、予想は少し甘かったようだ。この流れが他の国にも波及したら全世界と戦わなければならない。
ただの冒険者でしかなかった俺だけで、危機を乗り越えられるだろうか。
どうするべきか悩んでいると壇上に一人の男が立った。見たことあるような顔だが気のせいだろう。
「彼は魔物討伐の功績を認められて勇者になった男、バロルドだ! この場にはいないが、聖女も協力すると言ってくれている! 魔王ソフィーは彼らが倒してくれるだろう。しかし! 配下の魔物は誰かが戦わなければいけない!」
話の流れが読めた。これは私兵の募集だったのか。
「勇敢な我が領民よ! この土地に住む家族を守るために立ち上がれ! 希望者には温かい食事と寝床、そして多大な報酬と名誉を約束しようッ!」
割れんばかりの歓声が上がった。
演説が終わってもしばらく広場に止まっていると、入隊希望者は壇上の近くにある受付で手続きをしていく。浮浪者であっても参加できるようでボロボロの身なりをした人々も参加していく。老人や子供までいるから驚きだ。戦力にはならないと思うのだが、補給部隊として配置するのだろうか。
盗み聞した限りだと明日の朝には第一陣が出発するらしい。
どこに行くのか興味がある。
島へ帰るのは後回しにして後をつけるとしよう。
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風邪で寝込んでしまったため昨日は更新できませんでした。
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