第761話 ソフィーはどう思う?

 数日かけてフィネの能力を把握した。


 ギフト能力は引き継いでいるようで「生物以外の思いついた物であれば一つだけ創造可能。しかし全て呪われている」という条件があるとわかっている。一つという条件は俺、実物を見なくても創造可能というのはノンダスの能力を引き継いでいているように感じる。呪いは、まぁ、あれだ。アンデッドなら当然だな。


 また身体能力は高く、俺が剣の扱いを教えたらすぐに覚えてしまった。達人ほどではないが、ベテラン冒険者であれば互角以上にやりあえるだろう。身の丈を超えるほどの大剣を好んで使うのでバランスは悪いように思えるが、本人が好んでいるなら口を出す必要はないか。


 魔法もそこそこそ使えるのだが偏りは大きい。具体的には捕食と炎の二属性のみだ。捕食はグールの特性から出ているのだと思うので不思議ではない。炎はカーリンをイメージさせて少し気分が悪い。


 俺たちの子供と呼ぶには様々な要素を引き継いでいるようにも思えるが、ソフィーはそれすら気に入っているようだ。


 娘なんだからという理由でダンジョンマスターの権限を一部貸与していて、ダンジョン内に限り転移や映像を確認できる能力まで手に入れている。


 裏切るまではいかなくとも、他のダンジョンマスターや人類に喧嘩を売ったらどうしようかと心配になったが、最悪は能力を剥奪すればいいと思ったら少しだけ気が楽になった。


 世の動きが怪しい今、多少の不満は飲み込んでも戦力の増強に力を入れるべきだろう。


 そういう点ではフィネの誕生は非常に喜ばしいことである。


 ******


 勇者や軍がダンジョンを攻略してくる前に次の手を打つため、俺とソフィー、フィネは地上の墓地エリアにきていた。近くには地下へ向かう大穴があって、巨大なスケルトンと一緒に落ちたことを思い出す。


「やっぱり数は暴力だと思うんだよね! ゾンビをいっぱいつくらない?」


 俺たちの数歩前を歩いているフィネは、こちらを向いて楽しそうに言った。


 墓地エリアを好きに使っていいと許可を出したので、やる気を出しているのだろう。


「弱い魔物を配置しても『ターンアンデッド』一発で消滅してしまう。強力な一体を用意した方がいいんじゃないか?」


 他にも大規模魔法、聖剣の一撃などでも同様の効果が期待できる。


 一定レベルを超えた能力をもっていると、数だけでは大きな脅威にならない。ある程度の質も求められるのだ。


「そういうのはフィネが防ぐから大丈夫だよ!」

「悪くはないが……」


 大量の数に飛び抜けた能力を持つ個体がいると、脅威度は跳ね上がる。ノンダスが率いていた兵の突破が難しかったのと似ている。


 敵の攻撃を無効化して数で押し潰すか。


「ソフィーはどう思う?」

「ずっと墓地エリアで過ごすならいいと思いますよ。フィネはそこまでの覚悟あるの?」


 国に認められた勇者、冒険者、軍隊、他のダンジョンマスターなど、俺たちの敵は多い。いつ襲ってくるかわからないため、即時対応できる場所にいるのは重要なことである。転移魔法じゃ間に合わないこともあるからな。


「あるよ! 大きいお城を作ってお姫様みたいに住みたいなー!」

「フィネがお姫様ならラルスさんは王様で私は王妃でしょうか。私たち夫婦の存在を広めるには悪くないですね」


 ふふふと暗い笑い方をしている。本気で言っているようだ。


 これは止められないな。ダンジョンが大きく変わりそうである。


「地味なので頼むぞ」

「任せてー!」


 フィネは両腕を挙げて膨大な魔力を放出した。


 何をするつもりだ?


 なんて疑問に思う時間すらなく、大穴を覆うほどの大きな黒い城が目の前に出現した。城壁すらあって、上には大砲のようなものが置かれている。離れていても感じられるほど強い呪いを発していて、ソフィーがくれた黒い鎧をきてなければ俺でも体調を崩していたかもしれない。


「ギフト能力で創ったのか。魔力は大丈夫か?」

「ギリギリ残っている感じ。維持している間、魔法は使えないかな」


 たったそれだけの制約で城を創造し続けられるのか。正直なところ俺なんか比べものにならないほどの力がある。


 輝きを求めて彼女の行き着いた先は、創造神に愛された娘なのかもしれない。


「ママは大丈夫だけど、パパは絶対に城の中で鎧を脱がないでね。呪われちゃうから」

「どうなるんだ?」

「うーん。人によるけどパパぐらいの強さなら、すごく体調が悪くなるぐらいかな」


 だとしたら普通の人間なら発狂死しそうだ。


 初めて出会った時のフィネのことを思えば、そのぐらいのことが起こっても当然だし、それ以上の不幸があっても不思議じゃない。


「島に家があるから、ここは別荘として使おうかなー!」

「いいですね。フィネは常に滞在して、私たちは週に一回お泊まりしましょうか。この広さならメイドや警備も必要ですね。余裕があるのでダンジョンの力で生み出しましょう」


 何もない空間に指を当てて動かすと、メイド服を着たグールが数十体出現した。ところどころ皮膚が破れていて肉が剥き出しになっている。衛生面に問題ありそうだが、俺以外誰も気にしていない。


 さらにスケルトン、リッチ、ミミック、ボーンドラゴンなど様々な魔物をダンジョンの機能で生み出したソフィーは、転移魔法を使ってヴァンパイアナイトを呼び出した。


「執事長として任命する。ここにいる配下を使って城の守りなさい」

「かしこまりました。クイーンの期待を裏切らない働きをすると約束いたします」


 膝をついて頭を垂れる姿は騎士そのものだった。


 女王のために命を賭すなんて、素材になった人間が好きそうな展開だ。言葉どおり呪いの城を守ってくれるだろう。


「よろしい。すぐに動きなさい」

「はっ!」


 ヴァンパイアナイトは立ち上がると、ダンジョンの機能で生み出されたばかりの魔物を連れて城の中へ入っていった。


 ダンジョンの奥へ進むためには呪いの城を攻略しなければならず、防衛能力は飛躍的に高まった。


 国軍や勇者だけなら襲われても撃退できる戦力はある。


 予想外のことが起こらない限りダンジョンが攻略されることはないだろう。

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