第755話 そろそろ発動しますね

 ゼルマの兵は敗走しそうになったが、バウルの活躍によって持ち直している。ノンダスの能力は同時に二種類までの盾しか創れず、また数もおよそ百が限界って所だろう。


 個人だと強力な能力ではあるが、軍での戦いだと使い勝手はさほどよくない。一部の兵もしくは指揮官を守るぐらいしかできないのだ。広範囲攻撃できる俺の方が向いている。


 実際、魔物をまとめて殺したこともあるしな。


 バウルは盾から出ている増援に苦戦しているようだが、ノンダスの注目を集めることには成功している。この調子でいくつもの盾を使わせていれば魔力切れまで狙えるので、ローザがもう一度範囲攻撃を仕掛ければ守り切れない。『ファイヤーストーム』を敵陣の真ん中に放てば勝てるかもしれないと思っていたのだが、プロセイン王国側の戦力はまだあるようだ。


 後方にいる魔法部隊から一人の男が上空に浮かんだ。


 矢が殺到するが『魔法障壁』によってすべて弾かれてしまう。ローザたちも遅れて魔法で攻撃するが、これも同じ結果となる。


 創造された盾に頼らなくても鉄壁の守りだ。能力が高い。


「そろそろ戦場が動くぞ」


 匂いを嗅ぎ続けているソフィーの背中をポンと軽く叩くと、顔を動かした。


「あの男は魔力量が多いですね。ローザさんと同じぐらいでしょうか」


 興味を持ったようで体を起こす。


 じーっと魔法を使う男を見つめていて飛び出しそうだったので、そっと手を握った。


「まだ動いちゃダメだ」

「わかってます」


 ぷーっと頬を膨らませてすねてしまったが、暴走しそうな気配があったので注意は必要なことだった。


 ノンダスにちょっかいを出しているバウルは、いち早く戦場の変化に気づいて撤退の命令を出しているが、兵たちは興奮していて戦いに集中している。気づいてないようだ。


「そろそろ発動しますね」


 ソフィーがつぶやくと数百におよぶ光の球が空に浮かんだ。見たことのない魔法だ。半数はゼルマの方へ向かい、残りは前線で戦っている兵たちを貫く。光っているだけでなく熱を持っているようで、頭や腹、胸に大きな穴を開けた兵たちから煙が上がっている。即死だろう。


 バウルはなんとか回避しているが、誘導機能もあるみたいで追われているようだ。当たりそうになると敵兵を間にいれて盾に使い、しぶとく生き残っている。


 一方のゼルマはローザたちが展開した『魔法障壁』によって光の球をすべて弾き飛ばしていた。びくともしないどころか、反撃の『ファイヤーボール』を放つ余裕まである。


「あの人たちも欲しいですね」


 瞳が濁っているソフィーが手に入れたがるほど、ゼルマの後方部隊も優秀だな。


 光の球を放っていた男は魔力が切れたのか地上に戻った。


 半壊した前線は撤退を始め、支援するための魔法をローザたちは放っているが、ノンダスが創造した盾によって一部は無効化されている。背後から斬り殺される兵が増えていて被害は拡大していた。


 そんな中、バウルはノンダスへの攻撃を開始する。


 短槍を振り回し、防御なんて考えずに攻める一方だ。一撃、一撃が重いようで、次第に余裕がなくなると仲間に使っていた盾が消える。


 俺が武器を創造したときは意識せずに維持できるが、ノンダスは違うのかもしれない。少なくとも他人に使う場合は、相応の集中力が必要なようだ。


「接近戦の技術はバウルのほうが上だ。しかし守りは突破できない。このままじゃ負けるぞ」


 ゼルマの兵を追撃していたヤツらがノンダンスのピンチに気づいたようで、戻ってきていた。


 早く戦線から離れないと囲まれてしまうのだが、バウルは関係なく攻め続けている。何本か矢が刺さっても動きは鈍らない。味方の生存率を少しでも高めるため必死になっているのであれば、英雄的な行為と言えるだろう。


 全体を指揮するゼルマが好機を逃すはずもなく、敵がたった一人に集中している隙に命令を出したようで、ローザが魔法を放った。


 敵陣に複数の大きな火柱が立つ。上空に向かって渦を巻いていて、近くにいる敵兵は吸い寄せられて炎に包まれながら空へ飛ばされていく。後方部隊は『魔法障壁』によって守っているようだが、前線は大打撃を受けている。


「あれはファイヤーストームですね。ラルスさんの偽物も攻撃を受けているようですけど、バウルさんは生きているのでしょうか?」


 ソフィーが指摘したように、ここからだと火柱に飲み込まれてしまっているように見える。


 魔法の効果が切れるまで待っていると、亀の甲羅のような盾が見えてきた。範囲攻撃から身を守る為に創造したのだろう。先ほどまで暴れ回っていたバウルの姿は見えない。


「魔法に巻き込まれて焼き殺されたのでしょうか?」

「あれを見てくれ。もしかしたら違うかもしれない」


 甲羅の盾にヒビが入った。すぐに割れると中から短槍をノンダスの腕に突き刺したバウルの姿が見える。


 どうやったかわからないが、創造された盾の中に入り込んで魔法をやり過ごすのと同時に攻撃までしていたようだ。常人ではできない判断力と実行力に驚いていた。

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