第754話 よう、元気だったか?(バウル視点)

 魔法の爆発音に怯えてしまい馬は使い物にならない。味方の兵に紛れて自らの足でノンダスに近づいていくと、生者よりも死者の数が増えてきた。矢に射殺された味方だ。


 また敵兵が矢を発射したので空を見ると、無数の矢が俺の方に向かってくる。範囲は広く逃げられない。タイミングを見計らって地面に転がっている死体を二つ同時に投げ、俺はその下に隠れる。


「ぎゃぁぁぁっっ!!」


 俺は死体のおかげで無事だが、矢が刺さってのたうち回っている味方の兵が見える。即死できたヤツらは幸せで、重傷を負っても運悪く生き残ってしまうと後が辛い。手当が間に合わなければ死ぬし、回復魔法やポーションが遅れると後遺症が残る。


 また仲間を助けようとする兵たちの足を引っ張るので、あまりよい状況ではない。


「突撃!」


 ロンダルト王国側の勢いが完全になくなった隙を敵は見逃さなかった。敵の歩兵が迫ってくる。


 味方は逃げようとしていて、エルラー家が率いてきた兵は崩壊寸前だ。


「逃げ場なんてないぞ! 戦って活路を開けッ!!」


 士気を上げるために魔力で身体能力を強化すると、一人で最前線に飛び出す。


 槍が迫ってきたので跳躍し、後方にいる敵兵が穂先を向けてきたので短槍を振るって無理やり隙間を作る。一時的に安全地帯ができたので無事に着地すると、短槍で目の前にいる敵の顔を串刺しにし、そのまま横に回転して振り回す。


 密集しているため身動きが取れず、穂先についたままの死体に当たって次々と吹き飛んでいく。


 不思議なことにノンダスの盾は出現しなかった。


 発動に条件があるのか……? そういえばラルスさんは、見たことのある武器だけを創造していた。


 魔力消費以外にも制約があっても不思議じゃない。


「死ねッ!!」

「うるせぇ! 考え事しているんだ! 邪魔するな!!」


 剣を振り下ろそうとした敵兵の腹を蹴ると、吹き飛んで仲間を巻き込んでいく。プロセイン王国は雑兵ばかりで面白くない。邪魔するヤツらを短槍で突き刺し、柄で吹き飛ばして戦っていく。


 接近戦では勝てないと判断したのか敵兵が距離を取り、数本の矢が飛んできた。


 短槍で弾きながら一本を素手で掴み、投げ返すと、敵兵の鉄兜を貫いて頭蓋骨まで到達した。力なく仰向けに倒れる。


 一連の動きを見て怯えたのか、攻撃が止まった。


「どうした! 早く俺を楽しませろっ!」


 挑発してものってこないどころか一歩下がってしまった。


 ようやく体がほぐれてきたってのに冷めるようなことをしやがって。


「なんだアイツ……」

「笑っているぞ」

「頭おかしいんじゃないか?」


 これだから雑兵と戦っても楽しくねぇんだよ。さっさとノンダスの所に行きてぇ。


「もっとヒリヒリする戦いをしようぜッ!!」


 叫びながら敵兵に向かうと背を向けて逃げ出した。あまりにも情けない姿だ。訓練された兵の動きじゃない。


 今回の敵は農民を徴兵してきた寄せ集めか?


 それなら勝ち目がある。


 エルラー家の魔法部隊は継続してノンダスを攻撃しており足止めには成功している。俺の活躍を見た味方の歩兵たちは士気を取り戻して攻勢に出たため、さらに戦場は混乱していた。


 動くなら今だ。


 逃げ出している敵兵の合間を縫って奥へ進んでいく。


 邪魔するどころか誰も気づいていない。


 ノンダスに近づいていくと全身を隠せるほど大きな盾に守られた敵兵の集団が見えてきた。前線にいたヤツらより装備の質がよい。


 こいつらは訓練を受けた兵だな。なめてかかったら痛い目に合いそうだ。


「敵が来たぞ! 倒せ! 殺せッ!!」


 馬に乗った指揮官らしき男がいたので、近くにいる兵を短槍で突き殺して剣を奪い、投擲したら大型の盾がいきなり出現した。刀身が当たり、落ちることなく反転して俺の方へ戻ってくる。


 飛び道具を反射する効果があるのか。


 魔法を防ぐ超大型の盾とは別に、ノンダスが同時に創り出したようだ。今は反射する盾を数十創りだして自身を守るように配置している。


 短槍で受け流して剣の軌道を変えると精鋭らしき敵兵が殺到してくる。


 密集されないように動き回りながら隙を見て短槍を突き刺し、すぐさま離脱していく。装備は一級品だが対して身体能力は強化されてないようで、俺の動きには付いてこれてない。敵の血で地面が真っ赤に染まっていく。


 ノンダスは新しい盾を創って守ろうとしない。


 魔法攻撃から身を守る巨大な盾が一つと、剣を反射させた盾が数十。これがヤツの限界か。俺の短槍は届きそうだ。


 危険なことをしようとしているのにワクワクしてくる。近くの兵を刺し殺しながら舌でペロリと唇を舐めると、ノンダスに向かって走って行く。


「邪魔だ! 死ねぇッ!!」


 注目されるために叫びながら短槍で敵兵を突き殺し、敵が持っている盾を足場にして跳躍する。空中にいる間、光の矢――『エネルギーボルト』が飛んできたが、体をひねってかわして着地、盾に隠れているノンダスが視界に入った。目測で十メートルほど。


「よう、元気だったか?」


 包帯で顔が覆われているため表情は判らないが、動揺している気配を感じる。


 勘が行けと囁く。


 限界まで身体能力を強化すると鼻血が出てきたので、腕で拭ってから飛び出す。ノンダスは避けようとしているが動きは遅い。


 魔力不足か?


 邪魔されることなく穂先はノンダスの左胸に突き刺さりそうだったが、手のひらほどの赤い盾が出現して阻まれてしまう。さらに接触した穂先からヒビが入り、柄まで完全に砕けてしまった。


 武器を完全破壊する盾……?


 一撃で倒せるとは思っていなかったので、すぐ後ろに下がる。


 後方には俺を追っている敵兵が近づいていた。


「この私を殺そうとして無事に帰れると思うなよッ!!」


 赤い盾が消えると俺の目の前に鏡の盾が十個ほど出現した。部屋の風景が映し出されていて、中にいる敵兵が近づくと、次々と鏡の盾から出てくる。


 転移に近い能力があるようだ。


「マズイな……」


 ダンジョンマスターと戦った時に比べればまだマシだが、増援がきてしまい危機的な状況ではある。


 逃げ場はない。


 覚悟を決めるか。死ぬまでに一人でも多く殺してやる。

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