第748話 お前が魔王ソフィーの愛人かッ!!
ダンジョンの侵入者を半殺しにすると言っていたのでソフィーを信じて様子を見ていたのだが、約束を忘れてしまっているようだ。このままじゃ全員殺してしまうと思って表に出てきてしまった。
逃げ出す判断をした二人は安全圏まで離れているので、恐らく生き延びれるだろう。
問題は教会騎士と思われる男と弓使いだ。あれだけ呪いを振りまいているソフィーに怯えるどころか敵意をむき出しにして無謀な戦いを挑んでいる。
フィネの力まで取り込んでダンジョンマスターとなった存在に勝てるなんて思っているのだろうか。
必殺の『ターンアンデッド』すら無効化されているんだぞ。
さっさと撤退を選んでくれ。
「デラルトは弓のけん制を続けてくれ!」
「何をするつもりなんだ?」
「とっておきの魔法をくらわせてやるさ」
自信ありげに言った教会騎士の男は、魔法を使うため体内の魔力を練り始めた。あのソフィーに対して効果を発揮するのか気になるが、発動することはないだろう。
「私の愛を否定した男は苦しんでから死んでもらいます」
体から垂れ流している呪いを一つにまとめている。ぐにゃぐにゃと動いていて不定形だ。離れているのに肌がピリピリしていて強い殺気を感じ、触れれば正気を保つのは難しいはず。
魔弓を使っているデラルトの攻撃は『魔法障壁』ですべて弾かれていて、けん制にすらなってなかった。
「貴方に呪いを」
魔法名すらない攻撃だ。呪いの塊が急速に膨らんだ。回避できるなんて思えない。デラルトは攻撃を止めて呆然と立ち尽くしている。
「なんなんだよ……あれ……」
「呆けるな! 創造神のために戦い続けろ!」
「…………無理だ」
地面に膝をつくと、デラルトは魔弓を地面に置いて祈りだした。
心が折れたのだろう。
人間が太刀打ちできる相手ではないと思って創造神に頼っているのだろうが、直接手を貸してくれることはない。大切な時に神ってのは傍観しかしないのだ。
「ソフィー!」
だから、俺が助ける。
大声で名前を呼ぶと黒い金属鎧を着た俺を見た。
攻撃が止まっているので今のうちに説得しよう。
「落ち着くんだ!」
「でも……あの人たちは私の愛を否定しました」
「俺は気にしていない!」
詳しくはわからないが、ソフィーが何に対して怒っているのかわかった。よりによって執着している事を否定するなんて、こいつらは死にたいのだろうか。
助ける気力が急速に失われていくが諦めるわけにはいかない。
「他人がどう思ていても、俺たちの心が通じていれば問題ないだろ!」
人前で恥ずかしいことを言ってしまったが、命がかかっているので後悔はしていない。説得の効果もあったのか、ソフィーが発している呪いのが薄まっている気がする。このままなら誰も死なずにすむ――。
「お前が魔王ソフィーの愛人かッ!!」
魔王? 愛人? 疑問が思い浮かんでしまい、行動が数瞬遅れてしまう。
教会騎士の男が俺に向かって魔法を発動させて、炎の槍を周囲に浮かべた。驚いたことに神聖魔法以外も使えるようだ。
あの女はメイスで殴りつけることばかりだったので、器用だなと思った。
『ファイヤーランス』
『魔法障壁』
炎の槍が飛んできたので防ぐ。
たいした威力はなかったようで、俺の障壁は完全に弾いて無効化した。
「な……ッ!」
驚いて体が固まっている。攻撃が通じないとわかった時点で逃げ出せばいいのに、先ほどから悪手ばかり打つ。
実力と経験が伴っていないチグハグな動きだ。教会で訓練ばかりしていて実戦をしてこなかったのかもしれない。まだ創造神に祈っているデラルトのほうが適切な判断をしていると言えるだろう。
とはいっても、勝てない相手に挑んでいる時点でダメなのは変わらないが。
「私の愛しい人に攻撃をした…………」
ソフィーの髪が蛇のようにうねっている。
魔力の制御が甘くなったのだ。
発している呪いの量と質も高まっていて、祈りを捧げていたデラルトは白目をむき、口から泡を吹いて倒れてしまった。全身にある穴から液体を垂れ流しながら痙攣していたが、しばらくして動かなくなる。
俺の努力は空回りしてしまい、今回もまた人間を殺してしまったようだ。
身につけている黒い鎧は呪いへの耐性を上げてくれるので俺は安全だ。駆け出してソフィーを止めようとするが、それよりも早く動かれてしまった。
「貴方に輝きは求めません。即座に死んでください」
呪いの塊が教会騎士に向かう。『魔法障壁』を使って防ごうとしたみたいだが、そんなもの何の役にも立たない。パリンと乾いた音を出して破壊されてしまい、黒い不定形の塊に飲み込まれてしまう。
「アァァァアアアアッッッ!!!」
殺される男の叫び声が聞こえた。
呪いの塊は耳、鼻、口といった穴から体内に侵入していく。すぐに目から血の涙が流れ出し、手足が暴れ出す。骨が折れても止まることなく、不規則に動いていることから本人の意志とは無関係に暴れているとわかった。
ぐねぐねと足を動かしながら死んでいるデラルトの前にまで来ると、神官騎士の男は顎が外れるほど口を開いて、顔にかぶりついた。肉を食いちぎり飲み込んでいる。
最悪なことに教会騎士本人の意識は残っているようで、悲痛な顔をしているが動きは止まらない。
呪いが体を乗っ取ってしまったみたいだな。
自我が残っているところに強い悪意を感じる。
最後はデラルトの骨を喉に詰まらせて窒息しながら教会騎士は死んでしまった。
「ソフィー……」
聖女と呼ばれるに相応しい人格を持ちながらも社会に翻弄された恋人は、世間で呼ばれているとおり魔王に近しい性質も持ってしまった。
それでも見捨てるなんてことはできず、俺だけはずっと側にいると決めている。
短い平穏を楽しみながら一緒に血塗られた道を歩いて行こう。
たぶん、それが俺たちと世界にとって正しいことなのだから。
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