第739話そうか、寂しいと殺したくなるのか

「ふぅ。意外と美味しい。クセになりそうです」


妖艶な笑みを浮かべたソフィーは、カーリンを投げ捨てた。どさりと音を立てて床に落ち、動かない。生きている、といって良いのか分からないが、動けるのは俺たちだけになってしまった。


「ソフィー……」

「はい。ラルスさん」


名前を呼んだら、俺を見てくれた。


自我は残っていて中身は変わってないように思える。このまま帰ってヤンで普通の生活をしよう。アンデッドになってしまったから子供は諦めなければいけないが、双子をがいるから寂しくはないだろう。


エレノアもいるんだし、これから楽しい生活が送れるはずだ。


「なんでそんな悲しい顔をしているんですか? 誰が悲しませているんですか? もしかして、この人たちが原因なのでしょうか?」


白く長い髪が、魔力によって浮かんだ。蛇のように動いていて、生き物のように見える。


「もしそうでしたら全員殺さないといけません。ラルスさんの敵は、私の敵ですから」


ああ……俺の考えはやはり妄想でしかなかったようだ。

ソフィーの精神は例に漏れず、変質していた。


そんな目で、映像に浮かんでいるお偉方を見るんじゃない。

君は聖女であって、殺戮者じゃないんだぞ。


「ねぇ、ラルスさん。誰から殺します? 私は枢機卿がおすすめですよ。あの人たちの性格は最悪ですから」


口が裂けてしまうほど横に広げて、残酷な提案をしてきた。


脳内では、ソフィーは魔物になったので殺すべきだと訴えてくるが、心が否定する。

どうしてこうなってしまったんだろうな。


リカルダがいればなんとかなる、なんて甘い考えをしていた俺が悪かったのだろうか。


「ねぇ、無視は寂しいですよ。答えてくれないと、寂しくて人を殺したくなっちゃいます」

「そうか、寂しいと殺したくなるのか」

「はい。そうなんです。だから、ずっと私の近くにいてくれますよね?」


会話の流れがおかしい。これもアンデッドになったからだろう。


ソフィーが人間だった頃、我慢することの多い人生だったのか、無邪気に欲求をぶつけてくるようになった。


ダンジョンマスターの力を手に入れた今、彼女を怒らすのは悪手だ。


幸いなことにお偉方は今の状況を正確に把握している。余計な邪魔はしてこないだろう。


「もちろんだ。俺たちのダンジョンで一緒に過ごそう」


後は頼んだぞと気持ちを込めて、ゼルマに視線を送った。

伝わってくれる良いのだが。


「わぁ。ありがとうございます」


手を小さく合わせて喜んだソフィーは、画面に映る人々を見る。


「運が良かったですね。あなたたちは使い道が残っているので、生かしてあげます」


長い間、政治の道具として使われてきたからなのか、俺を引き留める存在としか思っていないようだった。立場が完全に逆転してしまったようである。

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