第736話させるかよ!

錯乱していたカーリンは、俺の腹を殴りつけてきた。口から血を吐き、掴まれていた腕がちぎれ、吹き飛ぶ。床を転がって壁に当たると横たわる。


痛みによって体が動かせない。血は流れ続けているので、回復しなければ死んでしまう。


聖剣を創造して聖魔法を使おうと思ったのだが、中断する。


主導権を取り戻したカーリンが、ソフィーに槍の穂先を向けていたからだ。


痛みに耐えて走り出す。ソフィーは『魔法障壁』を使って防いでいるが、カーリンの前では時間稼ぎ以上の意味はない。少しずつ破壊されている。


「させるかよ!」


なんとか間に合った。カーリンに向けて炎の剣を振り下ろす。体を切り裂いた手応えはあった。本体ではあるので、回復するために下がるはず!


「甘いわね」


別の場所から声がした。視線を動かすと、カーリンが槍を突き出し、『魔法障壁』を貫通して、ソフィーの体に突き刺さる。


「ソフィーー!!」


俺が斬りつけたカーリンは霧のように消えた。間抜けな俺は分身を本物だと勘違いし、攻撃していたのか!!


即死はしていない。生きているのであれば、聖魔法で助けられる!


今度こそ間違えない!


火球が迫ってきたので炎の剣で叩き、軌道を変える。カーリンに接敵すると、槍を持つ腕を狙って突き出す。


「大切な人が危ないときって、視野が狭くなるのよね」


背後から声がすると、脇腹に痛みを感じ、吹き飛んだ。


「カーーリンッ!!!!」


分身を出して俺を攻撃したのか! 邪魔をするんじゃない! 俺はすぐにでもソフィーを助けなければいけないんだ!!


立ち上がろうとして足が動かないことに気づく。変な方向に曲がっているので、どうやら折れているようだ。聖剣を創造して『ヒール』をソフィーに使う。


「無駄よ。聖魔法が聞きにくくなる呪いなの」


だからソフィーは自分に魔法を使わなかったのか!

もう諸悪の根源であるカーリンを殺すしかない!


『ヒール』を使って骨折を治す。失った腕までは戻らなかったが、そんなこと今はどうでもいい。体が動けばいいのだ。立ち上がると聖剣を消して呪いの槍を創造する。


「ラルスさん。私はもう助かりません。逆に、このままの方が都合は良いんです」


血を流しているソフィーに拒否されてしまった。カーリンは槍を引き抜く。ソフィーは膝をついた。


悪い予感がする。邪魔をしなければ、後戻りできないことが起こってしまう。冒険者活動で培ってきた危険察知の能力が、警告してきた。


「聖女ごときじゃ、解呪できないわよ。何をするつもりかしら」


腕を組んでソフィーが何をするか楽しそうに眺めている。


いつのまにか、俺は三体のカーリンに囲まれていた。槍で突き刺そうとするが、二体に両腕を押さえつけられてしまい、動けない。強力な武器を持っても扱う人間の能力が低く、逆転する機会が作れない。


ソフィーは俺を見て何かを言った。あれは「あの時の話、信じてます」か? 一体何をするつもりだッ!


『クリエイトアンデッド』


人間や死体をアンデッドにする魔法が、ソフィーの体に効果を発揮した。

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