第735話うるさいわね

刀身に込められた魔力がなくなり、光も消えるとカーリンの姿が見えた。


「そんな、まさかッ!!」


驚いた声を上げたのは、映像を見ている人々だ。聖剣の一撃をくらっても、肌が軽いやけどをするぐらいで耐えられてしまったのだから、その反応も当然だろう。


強化され続けた本体の能力は、人類最高峰の武器でも意味をなさないか。


「うるさいわね」


映像から音が消えた。

カーリンの肌は回復していくが、隙が見当たらないので見守るしかない。


「炎の剣でも結果は同じですよね?」


俺の隣に移動したソフィーが聞いてきた。


「だな。俺たちの方が受けるダメージは大きい」

「困りましたね。圧倒的に攻撃力がたりません。このままでは、魔力を削るのですら難しいです」


エヴァを倒したときのように、自己回復させて魔力を消費させる作戦は、ほぼダメージを受けないカーリンには通用しない。別の方法を選ぶしかないのだが。


「お仲間は間に合わないわよ」


リカルダと潰し合わせる作戦は使えないか。

たった二人で、こいつをどうやって……ッ!


カーリンの姿が消えた。短距離の転移をしたのだろう。どこに消えた?


「こっちよ」


背後から声が聞こえた。振り返りながら聖剣を横にふるう。

カーリンが刀身をつかんだので、手を離して腕を上げながらアルマのメイスを創造。振り下ろすが、今度は腕をつかまれてしまった。


「ラルスちゃんは、こんなに遅かったのね」


圧倒的な身体能力の差によって、後出しのカーリンが先手を打つなんて状況になっているようだ。捕まれている腕の骨がギシギシと軋んでいるような音が聞こえる。自力で抜け出すのは厳しそうだ。


『ホーリージャベリン』


白い槍がカーリンに向かって飛んだが、羽を動かして弾き飛ばされた。


「あの女、邪魔ね」


瞳の色が、一瞬だけ変わった気がした。カーリンではなくフィネの意思が放った言葉なのだろうか。ソフィーを睨みつけている。


「逃げろ!」


警告したというのに、ソフィーは動かなかった。怯えているわけではない。何か言いたそうにしているので、考えがあっての判断のようだが、一人で相手できる敵ではないので逃げて欲しい。


「俺がなんとかする! 早く!」


ぼきっと、乾いた音がして俺の腕が折れた。


「あの女ばかりみてズルい」

「やめなさい! 私の計画が!」

「うるさい! うるさい! お前が私に従うんだ!」


人格がコロコロと入れ替わり、頭を抱えている。フィネの自我が暴れることは想定していなかったようで、珍しくカーリンが焦っている。ようやく訪れた最初で最後になるであろうチャンスを、逃すはずがない。




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