第733話あ、悪魔が出てきた! 助けてくれ!

「ふーん。私のことを疑うのね。生意気」


カーリンが珍しく苛立ったみたいだ。新しい半透明の画面を目の前に出すと、指を動かして操作する。


「じゃぁ、ちっちゃい国を滅ぼしてあげる」


直後、ロンダルトの王とは別の男性が騒ぎ出した。


「あ、悪魔が出てきた! 助けてくれ!」

「無理よ。貴方の国はバカな男の発言によってなくなるの。恨むならロンダルトのフリード王にすることね!」


騒いでいた男の口から血が吹き出た。どうやら胸を刺されたみたいで、フリードを恨むような目で見ながら倒れる。誰も写らなくなった映像からは、剣戟や悲鳴が聞こえていたのだが、それもしばらくするとなくなった。


悪魔どもが撤退したわけではない。近くにいる人間を殺し尽くしたのだ。


「意外ともろいわね。つまらないわ」


天井に大きな画面が現れた。王都と思われる場所が写っており、各所が燃えている。空にはコウモリの羽を持つ悪魔が数千……いや、一万以上はいるだろう。三十メートル近い巨大な悪魔が王城を素手で破壊している。


王都から距離は離れているというのに、なぜか悲鳴だけは近くから聞こえてくるから、嫌がらせとしては最上級だ。


「どこから、この魔物が……」


フリード王の声は震えていた。まさか本当に一国が滅ぶとは思わなかったのか。


ダンジョンマスターは多くの魔物を支配しているんだから、少し考えればわかることなのに。人間の常識に縛られて、想像力が欠如していたんだろうな。


「戦場跡よ。あそこの魔物も私の配下なの」

「複数のダンジョンを支配しているというのか!?」

「ええ。今は……三十ぐらいかしら? そのぐらいのダンジョンを支配しているし、一斉に魔物を操ることもできるわ」


画面に映っているお偉方が沈黙した。

もう、悲鳴だけしか聞こえない。


ダンジョンマスターの強さ、そして人類を終わらせるという言葉が真実だと、理解させられてしまったのだ。俺だって、他のヤツらと同じぐらい絶望はしている。


「それでは極上の音楽を聴きながら話を再開しましょうか」


まさに悪魔と呼べるような発言をすると、カーリンがこの場にいる全員に話しかける。


「私はこの戦いが終わったら、ダンジョンの魔物を使って各国を侵略するわ。転移魔法を使うから兵士を集めても無駄よ。あなたたちの隣に、素敵な悪魔を送ってあげる」

「そこの男が――」

「ラルス、よ。ちゃんと名前を呼びなさい」


軽い口調だったのに、俺の名前を呼ばなかったぐらいでカーリンはキレた。そんな細かいこと、元の性格なら気にしなかったはずだ。表面には出てきていないが、フィネの残滓は体内にある。そう思わせるできことであった。

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