第729話俺が先行するべきだろう

アルマのケガを回復させた後、リカルダとともに塔を登っていく。さっきまでとは違って、誰もしゃべらない。無言だ。


魔物の死体は、そこら中に転がっているが、動く存在はない。リカルダの配下はほぼ全滅したのだろう。


頂上に近づく度に不吉な気配が強まっているので、緊張感ばかりが高まっていく。


窓がないので外が見えず、何階にいるのかわからなくなるほど、同じ景色が続いている。


みんな疲れてきたので休憩を取ろう。

なんて思っていたら最上階に着いてしまった。


壁はなく、周囲の景色が見渡せる。どうやら塔は廃墟都市の中心部にあるらしい。どこを見ても崩れかけた建物ばかりがある。


景色は悪くないのだが腐臭がする風が吹くので、長くいたいと思える場所ではないな。


「転移魔方陣ね」


興味深そうに、部屋の中心を見ているローザがつぶやいた。

俺の目を見ると「入る?」なんて言いたそうな顔をしている。


「この先は、ダンジョンマスターの玉座とつながっている」


リカルダは歩いて魔方陣の前に立つ。

一人で入ってしまうと思ったのだが、振り返ると腕を組んで黙った。


「俺が先行する」


フィネと出会ってから様々なことがあった。敵対することの方が多かったと思うけど、協力したこともあった。


俺たちの関係は少しだけ複雑で、憎い敵とは断言できず、様々な感情がわき上がる相手だ。


だからなのか、カーリンに精神をイジられて変質させられてしまった姿を見て、哀れだなと感じている自分もいる。だからといって、存在を許す理由にはならない。この世から消滅させるべき、という考えは変わらないけどな。


「では、後ろは私に任せてください」


背中に張り付くようにしてソフィーが追随した。

今回でフィネとの関係を終わらせたいと強い覚悟を感じる。


「任せた」


転移魔方陣に入った。

ソフィーやアルマ、リカルダたちも続く姿が見えて、景色が一変する。


石造りの大広間だ。奥には数段高い場所に玉座があり、口元を真っ赤にしたフィネが足を組んで座っている。足下にはカーリンだった残骸が転がっているので、食べて能力と魂を吸収したのだろう。


「ラルスさん、他の人たちが……」


ソフィーに指摘されて気づいたが、ローザやアルマ、エレノア、リカルダの姿が見えない。この場には二人しかないのだ。


「邪魔者は別の場所に移動してもらったわ」


この口調はカーリンだな。

瞳は金色に輝いていて、俺の推測が正しいと証明している。


「戦力を分散させたのか」


聖剣を創造してソフィーをかばえる場所に移動した。カーリンはゆっくりと立ち上がると、自分の死体を蹴り飛ばす。ベチャりと不快な音をたてて壁に当たった。


歩くのに邪魔だからって、ずっと使っていた体を雑に扱いすぎだろ。


「二人とゆっくり話したかったから、別の場所に移動してもらったのよ。おしゃべりしましょ」

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