第728話私の中でゆっくり休め
ソフィーたちの所に行こうと思ったのだが、ちょっとした異変に気づいて足を止める。
勝手に進んでいたリカルダが、頭部をなくしたワインドの前で立っていたからだ。体に付いた傷を癒やすことはせず、動かない。眺めているだけである。顔を見ると、意外なことに悲しんでいるようだった。
大切な魔物だったのだろうか。
直接聞くわけにはいかないが、なんとなくそんなことを感じさせる態度である。
「今までご苦労だったな。私の中でゆっくり休め」
ワインドの体から白い球体が浮かび上がった。俺の頭ぐらいまであって、かなり大きい。ゆっくりとリカルダの胸にまで近づく。
「これはワインドの力そのものだ。フィネのように魂を取り込んでいるわけではないから、変質はしない。安心しろ」
俺に向けて言ったんだろうな。人格が変わることも、そして裏切ることもないと。魔物の言葉なんて本来は信じるに値しないはずなんだが、今のリカルダだけは違うと感じてしまった。
人間も魔物も大切な者を守りたい、失いたくないという気持ちを持っていると、知ってしまったからだ。
魔物が人類の敵であるのは変わらないが、もしかしたら例外があるかもしれない、なんて馬鹿げた妄想をするぐらいには、俺の価値観が大きく揺らいでいる。
「お前たちは先に行け」
静かにリカルダを見守っていた配下の魔物たちは、静かに移動を始めた。この先にいる敵を殲滅しに行ったのだろう。
光りの球を体に取り込むと、リカルダは俺を見た。
「カーリンは死んだが、フィネが肉体を食べて能力を上げるだろう」
何体ものダンジョンマスターを殺し、食べてきたからか、リカルダにもフィネの能力は把握されているようだ。
「だから逃げろと?」
「違う。必ず殺すぞ」
リカルダから冷気が発せられた。体が震えてしまうほどの寒さを感じる。
「もちろんと言いたいが、一つだけ先に聞いておきたいことがある」
「何だ?」
「もし、リカルダがヤンのダンジョンを手に入れたら、どうするつもりだ?」
「今と変わらない運用をしてやる。それで満足だろ?」
「それはありがたい。ついでに俺の知り合いと話せる機会が作れれば嬉しいんだが、頼めるか?」
「…………」
会談の実現性を確認したく聞いてみたのだが、リカルダは黙ってしまった。
彼女であれば話が通じると想って、欲張りすぎたか?
「ラルスの願いなら聞いてやる。全てが終わったら私と話したがっている人間と会わせろ」
なんと要望は受け入れられてしまった。
リカルダがヤンのダンジョンを手に入れれば、ゼルマが望んでいた会談は実現できる。ヤンの安全も確保できるだろうし、良い方向に話が進んでいる。
だからこそ、嫌な予感が湧き上がっていた。
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