第725話気持ちだけで生き残れるはずがないだろ

「私は負けない、あの人の分まで生きていたい……のに、なんで傷が直らないの?」


魔力切れに気づけないほどエヴァは混乱しているようだ。終わりが近づいている。ローザが動き出そうとしたので、肩に手を乗せ、首を横に振った。


「わかっているわよ」


どうやら俺の意図は伝わったようだ。

肩から手を離し、俺たちは周囲を警戒する。


「気持ちだけで生き残れるはずがないだろ」


大剣を抜いて切っ先をエヴァの眼前に向ける。


「これより、アンデッドに堕ちた人間を処分する。もし次の生があるなら正しく生きることだな」

「いやだ! 死にたくない!! 私の大切な人を殺さないで!」


錯乱していて、何を言っているのか理解できない。きっとエヴァの脳内では、まったく別のシーンが浮かんでいることだろう。


「うるさい。黙れ」


大剣を引いた瞬間にカーリンが助けようとして、アルマに突っ込んでいく。

この動きは予想できたので、既に邪魔をする準備は整っている。


「カーリンを止めるぞ!」


俺は『エネルギージャベリン』を使って透明の槍を放った。身を守るためにカーリンが『魔法障壁』を使って弾いてしまう。ダメージは与えられなかったが、一瞬だけ移動速度が緩やかになった。ソフィーとエレノアの魔法が間に合う。


『『フォース』』


上空から眼が出現した。神の威圧と呼ぶにふさわしい効果を発揮してくれて、カーリンを地面に叩き落とす。擦り傷ぐらいはあるが、ダメージと呼ばれるものはない。


「私の邪魔をするなんてやるじゃない」


カーリンは、まだ余裕の笑みを浮かべている。

この程度では倒せないことは予想済みだ。まだ次の一手はあるぞ。


「これで消えなさい!」


時間をかけて魔法発動の準備していたローザが魔法を放つ。


『ファイヤーストーム』


カーリンを中心として炎の竜巻が発生した。熱風が届いてくるほどであり、中心部はかなりの高温になっていることだろう。聖女コンビが『フォース』を使っているのだから、本体であっても抜け出すのは不可能だ。


最後の一滴まで魔力を使い切ると魔法の効果は消えて、ローザたちが青白い顔をしながら座り込んだ。


カーリンは全身にやけどを負いながらも、立ち上がる。


「やるじゃない。でも、力が足りなかったようね」


この程度の攻撃では依り代すら破壊できないことぐらい理解している。重要なのは、俺たちの方に意識を向いてくれることだった。


「ワシに背を向けておしゃべりとは。舐められたものだな」


カーリンの腹に剣が生えた。ワインドが背中から刺したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る