第724話技術は拙いくせに口だけは回るな

「聖魔法の耐性を得ただけで、勝てると思うなよ」


頭を狙ってメイスを振り下ろすと、サーベルに阻まれてしまった。呪いの浸食が始まって、接触している部分からメイスが黒ずんでいく。


ギリギリと押し合いをしながら、エヴァは傷を癒やす。たった数秒で頭部は復活した。自己回復能力が高すぎる! これもカーリンがイジった結果なのだろうか。


メイスの半分が黒くなると、アルマが反撃に出た。


『エンジェルリンク』


アルマに似つかわしくない白い羽が背中から生えて、魔力が増大した。呪いを浄化したのかメイスの黒ずみが一瞬消え、すぐさま大剣に変わる。サーベルの呪いは健在だが、能力の一部を無効化できたのは大きい。戦いやすくなったはずだ。


「うぉぉおおお!!」


雄叫びを上げながらアルマが大剣に込める力を増やしたようだ。サーベルの刀身にひびが入り、大きくなっていく。


「フィネ様にいただいた剣が!?」


エヴァが驚きの声を上げたのと同時に刀身が砕け散った。

大剣が右肩に食い込み肉を引きちぎると、腹まで割ける。


だが致命傷にはなっていないようで、魔力を使ってエヴァは傷口を修復していく。


「魔力が尽きるまで、何度も殺してやる」


エヴァの体から大剣を引き抜くと、横に振るう。腰から上下に分断されたが、傷口から血が糸のように伸び、下半身と上半身に接続する。宙を舞っていた上半身が引き寄せられて元に戻った。


ヴァンパイは何度も倒したことはあるが、あれほどの理不尽な回復のしかたは見たことがない。流石のアルマも驚いたか? と、思いながら彼女を見る。


「何度も殺せるだなんて、最高だなッ!!」


濁った瞳がギラリと光ったような気がした。


大剣を軽々と振るってエヴァを細切れにしていく。反撃しようにも、アルマの方が速いので、一方的に攻撃されている状況だ。


「あら、彼女、意外と強いのね」


改造したエヴァがピンチだというのに、カーリンは何の感情も抱いていないようだ。実験体の一つが壊れた程度の認識なんだろう。


血を使ってエヴァは体をくっつけながら、上空へ逃げる。アルマは白い羽を使って追いかけようとするが、火球が近づいてきたので行動を中断し、『魔法障壁』を使って防いだ。


「カーリンッ!」


邪魔した相手を睨みつけるアルマ。その隙を見てエヴァは体を再生させる。


「人間ごときに負けるなんて絶対に許されない! お前だけは殺すッ!」


今まで見たことのない怒りの表情をしながらエヴァが叫んだ。

ローザは悲しそうな顔をしている。生前の面影がなくなり、色々と思うところがあるのだろう。俺だって何も感じない、とは言えない。


「技術は拙いくせに口だけは回るな。人間だった頃は、誰かの影に隠れて悪口を言っていたタイプか?」

「うるさい! お前に何が分かるっ!!」


羽を大きく広げたエヴァが、アルマを睨みつける。


「私と同じで誰かにすがって生きているくせに! 私を下に見るんじゃないっ!!」

「私とお前が同じだと? お前は何も分かってないな!」


白い羽を広げるとアルマが急上昇する。


またカーリンが邪魔をしようとしたので、『エネルギージャベリン』を放ち、火球を打ち落とす。ワインドの攻撃も激しくなったので、よそ見をする余裕はなくなったみたいだ。


アルマは大剣の腹でエヴァの背中を叩くと、地面に落下させる。


「私は教会や創造神にすがっているわけじゃない。アンデッドを効率よく消滅させるための道具として、利用しているだけだ。人生の全てを他人に委ねているお前とは、根本が違うッ!」


常に誰かに従い楽をしてきたエヴァと、アンデッドを倒すために組織を利用しているアルマでは、確かに大きく違う。


納得できる主張ではあるのだが……聖女の前で、今の発言をしても大丈夫なのか?


異端審問官が聞いたら拷問されても不思議ではないぞ。


「薄々感じていたことですが、創造神の名前を使うのは建前だった、ということですのね」


呆れたと言った感じでエレノアがつぶやいた。

その程度で済ませて良いのか?


「そろそろ消えろ」


アルマが急降下して、仰向けに倒れたままのエヴァに突撃した。あまりの衝撃に床が砕けて土煙が上がる。


しばらくして煙が薄れると、胸に大剣が突き刺さったエヴァの姿があった。自己回復は止まっているので、魔力を使い切っているようだ。


アルマは腕を組んで見下ろしている。

これ以上、攻撃するつもりはないみたいだが、そんな余裕を見せてていいのかよ。

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