第723話何も覚えてないのね

戦っているリカルダから発する冷気によって、部屋の気温が下がっていき、体が震えだした。


『アイスプロテクト』


ローザが魔法を使うと、体に薄い膜が張られて寒さを感じなくなった。指示を出す前に動くなんて、ずいぶんとやる気があるじゃないか。きっと、目の前にいるエヴァが原因だろうな。


「久しぶりね。元気してたかしら」

「…………私のことを知っているの?」


驚いた。ローザの言葉に返事するなんて、思いもしなかったぞ。今まで会話なんて成立しなかったのに。フィネと同様にエヴァも精神が変容しているのか? それとも時間をかけて知能が発達したのか?


「そうよ。人間の頃の貴方を知っているわ」

「人間? 何を言っているの。私はもとからヴァンパイア。変なことを言わないで」

「何も覚えてないのね」


落胆したのか、ローザは小さなため息をはいて黙ってしまった。その代わり、元気になった人間が一人だけいる。


「この女は私がやる。邪魔をするなよ?」


アンデッドに強い憎しみを持つアルマは、メイスを軽く振り回しながら前に出た。共闘しようと言ったら襲われそうなので、黙ったままソフィーとエレノアに視線を送る。小さくうなずくと聖魔法を使った。


『ホーリーブレス』


さらに俺も補助魔法を使ってやる。


『エンチャントウエポン』


メイスが淡く光った。これで武器の威力が底上げされたことだろう。期待はしていなかったが礼なんて言われず、走りながらエヴァに近づくとメイスを振り下ろした。


なんと両腕を上げて受け止めようとする。ぐしゃりと水のはじけたような音がすると、腕と一緒にエヴァの頭が破裂した。


この程度では死なないと分かっているアルマは、油断することはない。メイスを横に振るって腹に当てると吹き飛ばす。エヴァは壁にめりこんで動かなくなった。


「二人とも頼んだ!!」


今がチャンスだ。アンデッドなら聖魔法が効く。


『『ターンアンデッド』』


エヴァを中心に光りの柱が立った。体が溶けていく。聖女級の力があわされば、どんあアンデッドだって……!!


「私の改造したヴァンパイアがその程度で死ぬと思って? 聖魔法なんて効かないわよ」


さすが本体、と褒めるべきなのだろうか。ワインドの攻撃を踊るようにして避けながら、カーリンは嗤っていた。


フィネがダンジョンマスターの力を取り込んでおかしくなったのだ。側近に手を加えても不思議ではない。


光りの柱に包まれながら、頭を失ったエヴァが立ち上がる。いつの間にか、手に持っていたサーベルの刀身が真っ黒になっていた。


ここからでも感じられるほど、強い呪いを発していて近づきたくない……なんて思っていたら、アルマが怒りの形相をしたままエヴァに攻撃しようとしていた。



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