第721話ラルスたちの働きは、すばらしかったぞッ!

「魔物になってもしぶといだけで、つまらない男だったな」


自由を求め、リカルダを信仰し、魔物になったが、最後まで報われなかったな。人間を殺しすぎているので同情する気なんて一切ないが、魔物に翻弄された生き様には考えさせられるものがあった。


「ラルスたちの働きは、すばらしかったぞッ!」


両手を広げてリカルダが近づいてくる。抱きしめてこようとしてくるのが、嫌でもわかってしまう。拒否するべきか、それとも今後の戦いのことを考えて受け入れるべきか悩んでいると、背後から強大な魔力が発生した。


黒い羽を大きく広げたフィネが出現している。体調が悪いのか頭を抑えていて、眉間にシワを寄せている。息も荒いし、フラフラとしているので戦える状況ではなさそうだ。


「旦那様を奪う……うるさい! 黙れッ! 私のラルスに手を出すな!」


フィネの瞳には俺の姿があった。出会ったときから常に執着されているが、それも今日までだ。必ずこの世界から消し去ってやろう。それが彼女にとっての救いにもなる。そう感じていた。


「他人の魂を吸収する魔物は、最後はこうなる。もうすぐ自我がなくなり、破壊だけをする存在になるだろう」


リカルダは無感情な声で言った。こういった症状を見るのも初めてではないようだ。


もしかしたらフィネのことを哀れんでいるのかもしれんな。


「その魔力量からして、お前、本体で来ただろ? 依り代を動かす余力すらないようだな」

「うるさい! うるさい! 黙れッ!」


頭をかきむしってフィネが叫ぶ。リカルダに言ったわけではないだろう。取り込んだ魂が脳内で解放しろと言い続けているのかもしれない。寝ても起きてもずっと、そんな状態であれば精神が崩壊するのも不思議ではない。


「カーリンはどうした? どこで見ている?」


先ほど依り代を破壊したばかりのカーリンを探すために、リカルダは周囲を見渡している。本体できたフィネは眼中にないようだ。彼女のダンジョンだというのに。


因縁の相手ではあるが、なんだか可哀想だ、なんて感じてしまった。


「ダンジョンマスターとは、ダンジョンの最奥で会う。それがマナーじゃなかったかしら?」


また膨大な魔力を持つ魔物が出現した。カーリンだ。今まで感じたことのないプレッシャーがあり、こいつも本体できたみたいだな。


「そんなルール、いまさら関係ないだろ?」

「そうね。老害が考えたルールなんて従う理由ないわ」

「新人を教育するのもベテランの仕事だ。覚悟しろよ」


カーリンは挑発するのが上手い。リカルダが切れてしまった。


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