第719話笑止
ダンジョンマスターは魔物の頂点だと思っていたのだが、鍛え方次第では種族の壁を越えることができるのか。
目の前で繰り広げられている戦いを見た、俺の感想である。
「ただの魔物のくせにやるわね……」
「全ては我が主のお力によるものだ」
そういえばリカルダは、死体から能力を抽出して自分や他者が強化できる能力を持っていたな。敵に回すと恐ろしい……。
「お前を倒して奥に進む」
「あなたたちは邪魔なの。そんなことはさせないわ」
地面に転移魔方陣が浮かび上がる。ワインドが剣を振るって破壊しようとしたが、カーリンは炎の槍を放って邪魔をした。
「俺様の戦場は、ここか」
出現したのはベルハルクだ。見た目は人間のように見えるが、エヴァの力によってレッサーヴァンパイアに変わっている。不死のギフトを持っていたが、アンデッドになったことで性質が多少変化しているので、斬ることしかできないワインドとは相性が良いかもしれんな。
「随分と、みすぼらしい姿になってるじゃないか」
嗤いながらカーリンを見下していた。魔物を信仰していた男とは思えない態度である。それだけ血によって縛られた今の立場が、気に入っていないのだろう。
「奴隷のくせに生意気ね。さっさと目を隠している男と戦いなさい」
「ちッ」
人間だった頃であれば激高していたはずだが、舌打ちだけで済ましたようだ。命令に従えなんてルールから逃れられないのだろう。戦う場所、生きる理由、その全てが他人に決められている。
カーリンとの会話を中断すると、ベルハルクはワインドを見た。
「ということだ。悪いが死んでもらうぞ」
「笑止」
ベルハルクの姿が消えて、ワインドの背後を取った。足が頭に向かって伸びていく。俺だったら反応ができたかどうか、という速度である。
「遅いな」
一瞬にしてベルハルクの全身が細切れになった。肉片が飛び散り、ワインドの体に付着する。その姿を見て勝ったと思ったんだろう。剣を鞘にしまった。
「ん?」
異変を感じたようだ。ワインドの動きがピタリと止まった。
「なんだコレは」
紐のように伸びた肉片が、腕や足に絡みついていたのだ。引きちぎってもすぐに再生するため、抜け出すのに時間がかかっている。おぞましい能力になった不死のギフトに驚きながらも、ワインドは剣を抜こうとする。
「死になさい」
カーリンが火球を放った。たった一つしかないが、離れた距離にいる俺でも熱さを感じるほどだ。当たれば即座に蒸発するだろう。
「戦いの邪魔をするなんて無粋だな」
リカルダがワインドの前に立つと、拳で火球をはじき返す。回復途中だったカーリンは動けずに直撃、蒸発して消えた。
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