第718話様子を見に行く

「ありがとう」


礼を言ってから塔の奥に進んで階段を上る。ソフィーはぴったりとついてきていて、離れようとしない。動きに支障は来してないので、特に文句を言うことはなく歩き続ける。


二階、三階も一階と似たような光景が続いていて、リカルダが呼び寄せた魔物の死体だけが残っている。迷路のように入り組んだ通路を進んでいく。しばらくすると戦闘音が聞こえてきた。


「様子を見に行く」


他の四人はこの場で待機だ。中腰の状態になって音がするほうへ行くと、通路の先に大部屋があった。激しい戦闘をしているようで、床や壁、天井に穴が空いている。


問題は誰が戦っているかだが、大部屋を見ているとすぐにわかった。


目を布で隠しているワインドが剣を構えて立っており、カーリンが火魔法を連発していたのだ。火球はワインドに近づくと、かき消える。あまりにも不自然な動きなので目を強化して見ると、剣が一瞬だけ動いていることに気づく。


剣を振っただけで火球を消すか。

同じことができる人間なんていないぞ。


依り代とはいえ、カーリンと対等に戦えるだけはあるな。


「新米のダンジョンマスターごときに時間をかけすぎだ」


尻尾を地面に叩きつけて、リカルダは怒りの声を上げた。


ダンジョンマスターと互角以上の戦いをしているというのに、要求レベルが高い。文句があるならお前が戦えよと思ったが、配下に戦わせて勝つことに意味があるんだろうと、思い直す。新人であるカーリンに、圧倒的な力の差というヤツを見せつけたいだろう。


「かしこまりました」


ワインドは腰を落として、刀身を後ろにもっていく。体内の魔力が静かに高まり全身に行き渡ると、空気がピリピリと振動して緊張感が高まった。


「目ぐらい開けたらどうかしら? 私の方が美しいから、主人を変えたくなるかもよ?」


「戯れ言を」


お得意の魔眼も目が合わなければ効果は薄れるか。魔法は完全に見切られているようだし、打つ手なしか?


「あらいい男なのに、残念。老害と一緒に死になさい」


リカルダから怒気を感じたが、今はそれどころじゃない。なんとカーリンが複数に分裂したのだ。ざっと三十ぐらい。さすがに単体の時より力は落ちているように感じるが、それでも上位の魔物よりも強いぞ。


剣一本で数体をまとめて斬り殺すことはできるだろうが、生き残ったカーリンたちの攻撃を避けるのは不可能だ。相性が悪いと思わずにはいられない。


「我が主人を愚弄した罪は、死で償え」


静かな怒りを感じる。ワインドが剣を振るった。


どうやら俺の予想は外れてしまったようだ。三十もいたカーリンは細切れになって霧のように消える。


残ったのは、傷だらけになって肩で息をしている一体のみだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る