第716話納得できる話であれば従うさ
教会から持ってきたマナポーションを飲んでから、少し休憩を挟んで廃墟都市に入った。
空気は淀んでいて腐臭は漂っているが、逆に言うとそれだけだ。アンデッドは消滅していて脅威は感じない。やはり聖魔法の力は強力だな。フィネがアンデッドのままなら勝率は高かっただろうに。残念である。
アルマと戦った廃教会を通り過ぎて、枯れた噴水跡に到着する。そういえばここで、クソッタレな男を罠にはめて殺したな、なんて思い出に浸るぐらいの余裕はあった。
「リカルダたちは、どこに行った?」
警戒した声を出しながらアルマは周囲を見渡している。アンデッドを消滅させることばかりだけ考えている女だと思っていたが、今はまともに思考が働いているらしい。
「もっと奥に行ってるだろう」
「奥か……お前は、ここより先の道を知っているか?」
「わからない。廃教会は攻略中だからな」
冒険者たちがヤンのダンジョンに入って未踏の場所を減らしてきたが、未だに全容はつかめていない。奥と表現はしたが、具体的にどこに行けば先に進めるかは、誰も知らないのだ。
「だからお前はダメなんだ。そんなことで、ソフィーやエレノアが守れるとでも思っているのか?」
「道が分からないのと、守ることは関係ないだろ」
「ある。大切な者を守りたいのであれば、事前準備はやりすぎるぐらいが丁度良いからな」
反論はできなかった。アルマの言うことは正しい。今回は時間的な制約もあったのであまり準備はできなかったし、リカルダというイレギュラーもいたので、計画的には動けてないのだ。
普通なら撤退して態勢を整え直す必要があるのだが、その時間も惜しいので先に進んでいる。
「そこまで言うなら、お前には考えがあるのか?」
「もちろんだ」
俺を馬鹿にするようなことはせずに、ゆっくり腕を上げる。一本の塔を指さした。
「魔物の足跡が向かう先だ。ダンジョンの奥は、あっちの方にあるだろう」
狩人みたいな考え方で場所を特定したようだ。言っていることには説得力があるし、間違ってはなさそうである。
「行ってみるか」
「ほう。珍しく反発しないな」
「ガキじゃないんだ。納得できる話であれば従うさ」
「…………」
深刻な顔をされてしまった。会話が止まって気まずい。何か変なことを言ってしまったのだろうかと心配になってくると、アルマが俺の目をまっすぐ見てきた。相変わらず濁った目をしていて、何を考えているのか読めん。
「どんなことがあっても、ソフィーやエレノア様の味方をしてやれよ。私には、してやれないことだからな」
「お前に頼まれるまでもない。当然だろ」
アンデッドへの憎しみや教会の教えに縛られているアルマには、できないことも多いからな。せめて俺ぐらいは一番の味方でいたいとは思っていた。
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