第712話邪魔者は消した。進め!!

悪魔を見て、ワインドより先にリカルダが動いた。


「生意気だな。私を殺すつもりなら主人自らが来るべきだ」


腕を組みながらリカルダが話しかけると、返事の代わりに三つ首の悪魔が槍を突き出す。しかし途中で動きが止まった。『魔法障壁』が邪魔で攻撃は失敗したのだ。


「なんだ。その程度の力しかないのか」


ガッカリしたとでも言いたそうな声だった。尻尾を振るって穂先に当てると槍が吹き飛び、武器を失った三つ首の悪魔は殴りかかろうとする。


「私に近寄るな」


頭部に魔力が集まる。口を大きく開いたリカルダから真っ白なブレスが放たれた。三つ首の腕、体、頭、足などが瞬時に凍りつく。離れている俺たちにまで冷気が届くほどだ。


前回は祈りのスタッフによる『結界』で防ぐことはできたが、今回のブレスを見る限り、あの時は手加減してくれたんだろうと思えた。


リカルダの指先が、氷の彫像となった三つ首の悪魔に触れた。

静かな破壊音とともに崩れる。


カーリンの側近レベルの魔物が一瞬にして倒されてしまった。

ベテランと新人の差はこれほどあるのかと、驚きが止まらない。


「邪魔者は消した。進め!!」


雄叫びを上げながら進軍を再開した。ドラゴン系の魔物が、ダンジョンを発見したときに落ちた穴へなだれ込んでいく。侵略とはまさにこのこと。人類が何故生き残れているのか不思議になってしまう光景だ。


理性ではなく本能で周囲を破壊して行く姿は、原始的な恐怖を呼び起こす。


「どうだ! 私の可愛い部下はスゴイだろっ!!」


オモチャを自慢する子供のようなセリフだな。新しい遊び場を使えて嬉しいのだろう。


リカルダは俺たちのことを忘れて、空を飛びながら先に行ってしまった。やはり魔物と共闘なんてできないようである。


「これがダンジョンマスターの力か」


ずっと黙っていたアルマが、警戒するような声を出した。


アンデッドが絡むと理性が吹き飛ぶ女ではあるが、いまは冷静に敵対戦力の分析をしていそうである。数、質ともに人類を大きく上回る魔物の脅威を目の当たりにして、何を考えているんだろうな。


「ヤツらが本気になれば、俺たち人間はすぐに滅亡するだろうよ」

「悔しいが……その通りだな。ダンジョンマスターの協定がなければ、地上の支配者は違っていただろう」


珍しいな。アルマが俺の意見に同意するなんて。それほどの衝撃を受けたのか。


「協定の内容を知っているのか?」

「力を振るって良いのはダンジョン内だけというのがあるらしい。教会が見つけた死にかけのダンジョンマスターが言っていたみたいだぞ」

「死にかけ……だと! 他に情報は!?」

「お前に教える必要はない」


ちらっと俺を見たアルマは一人で歩き出してしまった。


フィネが殺し損ねたダンジョンマスターだったのだろうか。いろいろと聞きたいところではあるが、アルマは話してくれないだろうから、後回しにするしかなさそうだ。

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