第711話な、なによ。あれ

「ゴミどもを殺し尽くせーーー!」


リカルダが魔物の軍勢に命令をくだしている。

戦いが楽しいのか笑顔が止まらない。

相変わらず好戦的なヤツだな。


「私は部下を率いて大物を殺してきます」


いつの間にかこの場に出現した、一本だけ頭に角の生えた剣士がリカルダに言った。なぜか目を布で隠して自分で視界を奪っている。上半身は裸だし布きれみたいなズボンをはいていて、俺たちの感覚からすれば変態にしか見えない。これが側近っぽい動きをしているだから、魔物の価値観はよくわからんな。


「派手に暴れるんだぞ。ワインド」

「もちろんです。お返しをしなければいけませんからね」


口角が上がると、角の生えた男――ワインドの姿が消えた。

転移魔法ではない。驚くべき速さで移動したのだ。アイツが暗闇に紛れて襲ってきたら、俺ですら抵抗できずに殺されてしまうだろう。


長く生きたダンジョンマスターには優秀な配下がいるんだな。なんて感心していたら、ダンジョンの奥へ進む大穴から巨大な悪魔が飛び出てきた。着地と同時に地面が揺れる。


身長は二十メートル近くもあり、三つの顔に天を大尽くすほど大きなコウモリの羽、城壁を一撃で破壊できるであろう尻尾がある。手には三つ叉に別れた槍があって呪いを発していて、近くにいるだけで気が狂ってしまいそうだ。


魔力を持たない人間が近づけば、即死するだろう。

さらに九つの目には魔眼の効果があるらしく、常に光っていた。


「な、なによ。あれ」


一緒に数々の魔物を見てきたローザが震えていた。

今回ばかりはバカにできない。なぜなら俺も恐怖心というのを感じているからだ。


魔眼の効果だと思って、体内の魔力を活性化させても消えることはない。効力だけで言えば今まで出会った魔物の中でもトップクラス。カーリンを超えるだろう。


「悪魔型か。ここにカーリンもいるとは都合が良い。まとめて処分してやる」


リカルダは竜の翼を羽ばたかせて宙に浮かんだ。呼び出した魔物の軍勢と戦わせると思っていたのだが、どうやら本人が戦うらしい。


「主の命により、お前を殺す」


三つ首の悪魔が言葉を発した瞬間、死という言葉が脳裏をよぎった。呪詛だ。

そう思った瞬間にソフィーとエレノアが聖魔法を使う。


『サンクチュアリ』


聖域と呼ばれる結界が張られて状態異常攻撃が無効化された。聖女級が二人の効果があわさり、魔眼による恐怖心すらなくなった。さすが聖魔法のエキスパートである。一緒にいてくれて本当に助かった。


あんなのがカーリンの側近として控えていたんだから、俺たちじゃなければ死を待つだけだっただろう。ダンジョンマスターを殺すというのは人類にとってどれほど困難なことなのか。嫌でも実感してしまった。


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