第710話私たちは帰ってもいいんじゃない?

「私は、やられたらやり返すタイプなんだよ」


凶悪そうな笑みを浮かべながら、リカルダは転移の魔方陣が描かれた羊皮紙を何枚もばらまく。すぐに魔方陣が光り出して、リザードマンや大蜥蜴、アースドラゴンなどが続々と出現する。


前に魔物を引き連れたフィネがクルトのダンジョンで暴れていた。意趣返しをしたいのだろう。長く生きているくせに子供っぽいことをするな。


「ダンジョンを荒らせ!」


リカルダが呼び出した魔物が一斉に叫んだ。うるさかったので耳を塞ぐと、魔物軍勢は地面を揺らすほどの振動をおこしながら、ヤンのダンジョンの奥へ進んでいく。


スケルトンナイトぐらいじゃ相手にならず、ひき殺されてしまう。スライム型の魔物も出てくるがドラゴンのブレスで焼き尽くされてしまって、誰も止めることはできない。


「ダンジョンを荒らされる気持ちがわかったか! ムカつくだろ!」


遠くから覗き見していると思っているんだろう。誰もいない上空に向かってリカルダが叫ぶと、勝手に歩き出してしまう。俺たちの存在なんて忘れていそうだ。


リカルダは話せる方のダンジョンマスターだとは思うが、やっぱり魔物の思考は読めん。コントロールなんて不可能である。


「ねぇ、私たちは帰ってもいいんじゃない?」


いつものようにローザが仕事を放棄しようと提案してきた。通常であれば即刻に却下するが、今回ばかりは一部同意できる部分がある。帰ったと見せかけてダンジョンマスター同士で潰し合わせ、どちらかが負けそうになった時、俺たちが手を出す作戦を思いついたからだ。


「ダメです。私たちに余裕はありません。リカルダさんの後を追いましょう」


状況に流されることなくソフィーが言った。


仮に俺たちが失敗したら後に続く戦力はない。カーリンとフィネが暴れて事態が深刻になってから国が動く、といった流れになるだろう。その時に人類が止められるか? といったら、疑問が残る。勝率はかなり低いだろう。もしかしたらゼロだ。


そう言った意味では、今は人類にとって最後のチャンスとなるかもしれない。

手を抜いて良い場面ではなく全力で挑むべきなのだと、ソフィーに気づかされた。


「俺たちに失敗は許されない。絶対にリカルダを見失うなよ」

「えーーー」


つまなさそうに返事したローザの手を、ソフィーとエレノアが握る。アルマは最後尾から監視することにしたようで、逃げ道は消えてしまった。


「残念だったな」


瞳のハイライトが消えたローザの肩を軽く叩いてから、機嫌良く歌いながら尻尾を振っているリカルダの後に続いて、ダンジョンの奥へ進んでいく。




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