第707話予想は外れたみたいだな?

「では一緒に行こう」


さらっと俺の隣に立つと背中を押された。なにがあっても同行するみたいだ。一人では勝てないから俺たちに頼るなんてことは考えてないだろう。

フィネやカーリンへの対抗手段は持っているだろうから、別の目的があるのは間違いない。


「俺をエサに使うつもりだな?」


答える代わりに、リカルダは口が裂けるほどの笑みを浮かべた。

これだけで予想があったっていることは分かる。

やはり魔物。油断ならないな。


「私が探しても逃げられてばかりでな。大切なラルスがいれば襲ってくるだろ」


背中を触っていた腕が肩に移動して抱き寄せてきた。鱗が当たって痛い。獣臭いかもしれないと覚悟を決めていたら、意外にもスーッとするような爽やかな香りがした。意外にもリカルダは、きれい好きなのかもしれないな。


「見ているか! 大切なラルスは私の手の中にあるっ! 奪われて欲しくなければ会いに来い!!」


空に向かってリカルダが大声で叫んだ。

俺に執着しているフィネには大きな効果があっただろうことは間違いないのだが、変化は起きない。てっきり、怒り狂いながら出現すると思ったんだがな。


「予想は外れたみたいだな?」

「ふん、カーリンあたりが言いくるめたんだろう。先に行くぞ」


予定が狂って機嫌の悪くなったリカルダが歩き出した。

数歩進んで振り返る。


「どうした? 付いてこい」


俺たちが従うと思っているのが当たり前の態度だ。なぜ魔物の言うことを聞かなければいけない、なんて反発心が湧き上がってくる。


「これはチャンスです。利用しましょう」


そんな俺の心を見透かしたのか、いつの間にか近くにいたソフィーが耳元で囁いた。


「ダンジョンマスターにはダンジョンマスターをぶつけて、生き残った方を倒す。非常に効率的な戦い方ですよ」

「ソフィーの言う通りよ。魔物が嫌いなのはわかるけど、流れに乗るべきだと思うわ」


ローザまで賛同してきた。こいつは自分の利益や生き残る手段については敏感なので、リカルダと本当に同行したいと思っているのだろう。


「エレノアはどう考えている?」

「ソフィーと同意見ですわ。手段を選べるほど、わたくしたちは強くありませんことよ」


ダンジョンマスターを複数相手できるほど、俺たちは強くない。それはゼルマだってわかっているからこそ、ダンジョンの全てを奪うのではなく、会談の場を設けろと言ったのだろうからな。


最後に残ったアルマを見るが、こいつの聞かなくて良いだろう。エレノアやソフィーが行くのであれば勝手に付いてくるだろうから。


「話はまとまったか?」


魔物のくせに俺たちの話し合いを待っていたようだ。

エサとして利用価値があるなら、裏切る心配は無いだろう。ソフィーが言ったとおり生き残った方を処分すれば、ヤンだけじゃなくクルトのダンジョンまで手に入る可能性はある。俺たちには大きなメリットだ。


「一緒に行こう」


使える物は使うと決めて、俺たちはリカルダと一緒にダンジョンの奥へ進むことにした。

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