第705話ラルスさん?

ダンジョンマスターの襲撃があった翌朝。俺はヤンの被害状況を確認していたが、意外なことに死者はでていなかった。


フィネとカーリンがセットで襲ってきたというのにもかかわらず、だ。ヤンが壊滅していても不思議でなかったので、奇跡的な結果と言って良いだろう。


被害が少なかった要因は色々とある。

まずはカーリンが俺の味方をしてくれたことだろう。


ヤツが人類への愛に目覚めたはずはないので、絶対に裏がある。なんとなくだが、カーリンが整えた舞台で対決させたいから今回の戦いを回避させたような、そんな感じがしていた。俺の予想があっているのかはわからんが、大きくは外れてないだろう。


そして今回の襲撃で理解したことが一つある。


人格が不安定なフィネと何を考えているか不明なカーリン。こいつらと、まともに会話ができるとは思えない。ゼルマとの会談の場を設けるのではなく、さっさと消滅させるべきだ。俺はそんな結論にいたっていた。


◇◇◇


ヤンのダンジョンに入る日が訪れた。


目の前には雑草すら生えない荒れた土地が広がっている。曇り空で辺りは薄暗く、どんよりとした雰囲気があって重い。


今までは気にしたことはなかったが、死臭のようなものも漂っているような気がして、緊張感が高まっていく。フィネやカーリンといった脅威を知っているからこそ、ここが死地だと理解しているからだろう。


「ラルスさん?」


俺の不安が伝わったのか、隣に立っているソフィーが見上げながら心配そうな顔をしていた。


白いローブを着ていて手には純白のスタッフを持っており、ここではよく目立つ。死者をあの世に導くための案内人としては最適かもな。


その後ろにいるアルマとエレノアはいつもどおり姿だ。アルマはミスリル製の鎧や頑丈なメイスを持っているし、エレノアは黒い服に聖女のスタッフという装備である。


奴隷のローザはゼルマから良い装備をもらったようで、木の枝が複雑に絡み合った杖や呪いへの耐性が強い革製のブレストアーマなどを身につけていた。ここまで準備すれば、フィネが呪い系統の魔法を使って直撃しても、何とか生き残れるかもしれない。


一人では絶対に生き残れないだろうこの場所も、頼もしい仲間がいれば運命を覆せると思わせてくれる。

ダンジョンマスターになんて負けない。

ゼルマには悪いが、絶対に殺してやる。


「いや、なんでもない。行こう」


気合いを入れて一歩踏み出して、足が止まった。


「どうしてお前がここにいるッ!」


竜の尻尾と翼を持ち、顔と腹の一部以外は蒼い鱗に覆われている――リカルダが目の前にいた。直前まで気づけなかったので、転移魔法を使ったのだろう。

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