第704話旦那様を奪う存在は全員敵だ!!

まとめて倒すチャンスかもしれない。

そう思った次の瞬間、右手に持つ聖剣を強く握っていた。


「いや、まだその時ではない。焦るな」


聖剣の力を解放するにはソフィーかエレノアの力が必要で、炎の剣は熱から守ってくれるローザの魔法が必要である。エルラー家の宝物庫で見つけた呪いの槍は切り札となるので、依り代で戦っているダンジョンマスターには使えない。


相手は隙だらけではあるが攻撃する手段はなく、戦闘の推移を見守るしかなかった。


「旦那様を奪う存在は全員敵だ!!」


怒りで頭が真っ白になっているのか、フィネは俺のことなんて無視してカーリンを殴り続けている。短距離転移を使った一撃離脱戦法から逃れる術はない。


カーリンの腕は折れ、内臓は破裂して口から血を流していた。脳は揺さぶられているのか、足はフラついており指で押しただけで倒れてしまいそうである。


「死ね!」


トドメを刺すべくフィネが足を大きく上げてから、かかとをカーリンの頭上に落とすと、部屋の床が崩壊。地面ですら割れるほどで、頭は吹き飛んで消えていた。


恐るべき威力だ。俺が戦っていたときより強くなっている。これが他のダンジョンマスターを倒し、力を蓄えた今のフィネか。よく村で戦った時に生き残れたなんて、自分のことながら感心していた。


「次は、旦那様を奪うお前の番だ」


真っ直ぐな視線で俺を睨みつけてきたフィネは一歩足を前に出すと、止まって下を見る。俺もつられて同じ方向に視線を向けると、頭のないカーリンの腕がフィネの足を掴んでいた。


カチカチカチと音が聞こえてくる。やや高音で、周囲がうるさくても耳に残るほど印象的だ。何をするのかわからんが、テンポの速さから危険だと本能がささやいた。


「さっさと消えろ」


フィネがカーリンを蹴り上げたのと同時に、俺は走り出して逃げ出す。庭を抜けてると背後から熱を感じ、周囲が明るくなった。嫌な予感がしつつも振り返る。


「俺の家が燃えている……」


貯めた金を使ってソフィーたちと一緒に住める家を作ったばかりだったのに、今は天を貫く火柱に飲み込まれてしまった。あの様子じゃ何も残らないだろう。すべて消し炭になっているはずだ……と思っていたんだが、フラフラと歩く人影が、火柱から出てきた。


全身の肌は焼けただれ、片腕を失い、頭も半分ほどなくなっているフィネが近寄ってくる。傷が回復していないところから見て、魔力切れを起こしているのだろう。


「旦那様……敵……殺す……」


恐ろしい執念だな。ゆっくりとだが確実に俺に向かって歩いている。石に躓いて転び、倒れても、腕だけの力を使って這い寄ってきた。


『エアハンマー』


空気の塊を落とすと、ベチャと音がなってフィネは潰れた。

血が飛び散って動かない。


大切な物を失ってしまったが、ダンジョンマスターの襲撃は無事に切り抜けたようだった。

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