第703話せっかちな男はモテないわよ
「思わないな」
「だったら、私たちを追ってダンジョンの奥にくることね」
断られると分かっていたみたいで、平然と言ってのけた。
「そうなるか……」
計画を聞いた今、ゼルマの依頼なんて関係ない。やはりカーリンは危険だ。この場で殺すべきだろう。
ゼルマに見せてもらった呪いの槍は使えない。ここぞというときに限る。今は過去に見せた手札で戦い、チャンスが訪れるのを待とう。
「だったら、死ね」
右手に聖剣を創り出すと振り上げながらカーリンに近づく。
ソフィーのホーリーブレスと身体能力強化によって、上位の魔物ですら反応が遅れる速度だったはずなんだが、片腕で掴まれてしまい腕を半ばまで斬り裂く。
「せっかちな男はモテないわよ」
「魔物に言われても何も感じないな」
「不感症なのね。ソフィーちゃんがかわいそう」
分かりきった挑発だ。話には乗らずに力を込めて腕をさらに斬り裂こうとする。その瞬間、上空から爆発音が聞こえた。状況を確認したいため一瞬だけ上を見ると、血の涙を流すエヴァが爆発系の魔法を使っていた。
フィネは地上に降りていて、ゆっくりとこちらを歩いている。
「あらら。まさか配下を呼ぶだなんて」
俺の目の前にいたはずのカーリンがフィネの前に立っていた。
短距離の転移か……やっかいだな。
ダンジョンマスター二人を相手取るのは危険なので、静観して様子を見よう。
「旦那様を奪おうとするラルスを殺すためだ。どんな手だって使う」
「あら、まだシェムハザの意識が残っていたのね。意外としぶとい」
「お前も旦那様を奪うつもりなら、絶対に許さない」
「会話が成立しないほど、意識が消えかかっている。もうすぐ新しいフィネちゃんが誕生しそうで嬉しいわ」
取り込んだダンジョンマスターよりシェムハザの意識の方が強いことは驚きだが、そろそろ限界みたいだな。次に会うときは二度と出てこないだろう。
それは本人も分かっているのか、俺をこの場で絶対に殺すという意志はフィネから伝わってきた。
「しねぇぇぇええええ!!」
短距離転移を使って俺の目の前に出現したフィネが殴りかかってきた。狙いは腹だ。聖剣を間に滑り込ませて受け止めるが、重い衝撃を受けて吹き飛んでしまった。
いつもは皆で食事しているテーブルを砕き、壁に激突、突き抜けていく。地面に転がる勢いを利用して立ち上がる。
「ガハッ」
胃液を吐き出した。呼吸が乱れて動けない。このままだとすぐに追撃されてしまうと思っていたのだが、誰も来なかった。
離れた場所で争う声が聞こえる。
「そろそろ私の話を聞きなさい!」
「憎い男を殺すんだ!!」
悔しいが、カーリンに助けられたようだ。
ダンジョンマスター同士が争っていて、上空にいるエヴァは残っているレッサーデーモンの処理に忙しく、誰も俺のことは見ていなかった。
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