第702話好みが違うなら、仲良くなれそうね

「少しお仕置きが必要なようね」


カーリンを包んでいた緑の液体が一瞬にして蒸発した。


喉が焼けるような煙が部屋を包み込み、思わず腕で口を押さえてしまう。


「お前も私のラルスを奪うつもりだな」


瞬間移動をしてカーリンの背後に回ったフィネは、殺意を隠すことなく殴りつける。悪魔の尻尾が腕に絡みついて、頭へ当たる直前に止まった。


ダンジョンマスター同士の戦いとしては地味な攻防だ。俺を巻き添いにしないという配慮があるからだろうか。魔物に言うのも可笑しな話ではあるが、理性が残っているのであれば、ヤンを破壊しない配慮には期待したいものだ。


「世界中を絶望させてから終わらせる方が楽しくない?」

「ラルス以外には興味ない」

「だったら、私の言う通りに動けば良いのに」


悪魔の尻尾を動かし、フィネを投げ捨てた。


壁に当たると穴を開けて外に飛んでいくと、羽を使って姿勢をコントロールして足から地面に着地する。すぐに飛び出そうとしたみたいだが、カーリンがフィネの頭上にレッサーデーモンを召喚したので、ターゲットを変えたようだ。


空を飛んで百近いレッサーデーモンと戦っている。


「少しは、おしゃべりする時間がかせげそうね」


妖艶な笑みを浮かべ、余裕のある態度なのは変わらない。


「ヤンのダンジョンで待っているから、たどり着いたらお話し合いをしてあげる」

「……ゼルマとの会話を盗み聞きしたのか?」

「そんなことしないわよ。ラルスちゃんが彼女に呼び出されたと気づいて、予想しただけ」


ヤンがピンチになればゼルマや俺は必ず動く。状況によって細かい動きは変わるが、問題が大きければ最後はダンジョンマスターにだって会おうとする。


なんて予想は、人を弄ぶことが生きがいのカーリンなら簡単に予想できるか。


そうなるように、争いの種をばらまいていたんだろうしな。


「だったら今話し合おう。ゼルマは会談の場を設けたいと言っていた」

「ダンジョンマスターにお願いしたいのであれば、相応の苦難を乗り越えてもらわなきゃダメよ」


こいつは俺に何を求めているんだ?

なぜ苦難を乗り越えなければいけないのか理解ができない。貴族みたいに儀式として必要というわけでもないだろうし、絶対に裏があるはず。簡単に頷きたくはない。


「断ると言ったら?」

「私はかまわないわよ。フィネちゃんと一緒に、次の計画を実行するだけだから」

「次の計画だと?」


嫌な予感しかしない。俺にとって最悪に近い内容だろう。


「特別に教えてあげる。リカルダ抹殺計画よ。アノ女を殺してダンジョンを暴走させるの。楽しいと思わない?」


歴史あるでかいダンジョンだ。暴走すればクルトだけじゃなく周辺の地域は壊滅する。むろんヤンだって無事ではないだろう。そんな計画を見過ごせるはずがなかった。

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