第701話さっさとダンジョンに帰れ

「ラルスちゃんを見つける前に、帰ってもらう予定だったんだけど……上手くいかないものね」


口では文句を言っているが、カーリンは楽しそうに笑っている。


ヤンを攻撃されてムカついていることもあって、発言の意図を考える余裕なんてない。


宿屋の親父やガンダルのように仲の良かった人たちがどうなったのか、確認しに行きたいのだ。


「今なら見逃してやる。さっさとダンジョンに帰れ」


俺としては譲歩したつもりだったんだが、フィネは気にいらないみたいだな。

怒っている。

らしくないと感じてしまった。


カーリンが言っていたように、複数のダンジョンマスターの力を吸収、定着した結果なのか。


だとしたら、なんとも惨いことをする。元のフィネという要素は、もう俺への執着心ぐらいしかないだろう。


「私はラルスを迎えに来たんだ。ダンジョンへ帰るなら、一緒にだ」

「断ると言ったら?」

「選択肢などない。殺してでも連れて行く」


やはりフィネらしくない。


俺が生き残るために戦う姿が何よりも好きだったはずなのに、簡単に殺すと言っている。何が好きだったのか、何を求めていたのか、そんなことすら分からなくなっているようだな。


「絶対にさせません」


驚いたことにフィネの発言にキレたのはソフィーだった。


全身から魔力を発していて、すぐにでも魔法が使えそうに準備をしている。もちろん、一緒にいるエレノアも戦う気でいるようだ。


「私も同じ意見よ。フィネちゃん。今は、まだその時じゃないわ」


黙って聞いていたフィネの視線が、ソフィーからカーリンに移った。


「私に我慢しろと?」


フィネの足元から緑の液体が出てきて、家の床を汚していく。


白い煙が立ち上り床に穴を空けたところから見て、物質を溶かす効果がありそうだ。


「その通りよ」


「命令するなんて、随分と調子に乗っているじゃないか」


緑の液体が縦に伸びるとカーリンを包み込んだ。

服や肌が溶けていき、自己回復能力によって治っていく。


魔物同士の争いを見ながら、静かに一歩、二歩と後ろに下がってソフィーとエレノアに合流した。


「双子を連れて教会に逃げてくれ。あそこにはアルマとローザがいる」


俺の家には客人用の部屋はなく、また宿も冒険者どもでいっぱいだったので、ゼルマから借りたローザは教会に泊めていた。


おかげでダンジョンマスターの襲撃を避けられたんだから、運のいい女である。


その幸運、少し分けてくれないかな。


「ラルスさんはどうするんですか?」

「こんな所じゃ戦えないから、皆が逃げ出した後に俺も続く。皆の安否も確認したいしな」

「……わかりました。後で合流しましょう」


他の人も心配していると言ったのが良かったのだろう。

俺が一人で戦うんじゃないかと心配していたようだが、ソフィーは納得してくれたようで双子の部屋に行ってしまった。


「絶対に死なないでくださいまし」

「もちろんだ。後は任せたぞ」


なんと俺の頬にキスをしてから、エレノアはソフィーの後を追って去って行った。こんな時に大胆な行動をするとは思わず、一瞬だけ呆けてしまう。


その間にカーリンとフィネの戦いは進んでいたのだった。

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