第699話フィネちゃんに殺されるから

「騒いだら、この村を焼き尽くすわよ」


言ったことは必ず実行するという確信がある。脅しだと思って軽く扱ってはいけない。


「わかった」


小さな声で返事すると、カーリンが俺から離れた。


「素直な男は好きよ。フィネちゃんから奪い取っちゃおうかしら」

「笑えない冗談だな。俺はフィネのものになったつもりはないぞ」

「あら、そうだったかしらね」


男が一瞬で魅了されてしまうような笑みを浮かべながら、カーリンは腕を組んで胸を強調させた。


性的に誘惑するつもりなのかもしれないが、俺には通用しない。姿が似ているとはいえ魔物に発情する変態ではないからな。


「悪魔の戯れ言に付き合うつもりはない。早く用件を言え」


魔眼で操られないように体内の魔力を活性化させつつ、反応を見る。


「つまらない男ねぇ……」


先ほどとは正反対な評価をくだしたカーリンは微笑んだままだ。


無駄に時間を使っているのであれば、そうする理由があるはず。何を狙っている?


「ぎゃぁあぁああああ」


外から男の悲鳴が聞こえた。さらに金属がぶつかり合う音や爆発音までする。


「やっぱりきちゃったのね」

「何をした!!」

「私は何もしてないわよ。フィネちゃんが会いに来ただけじゃないかしら」

「だったらすぐにでも行かなければ――ッ!」


部屋から出ようとドアに手を伸ばしかけたら、カーリンから殺気が放たれて動きを止めてしまった。


振り返るとカーリンの爪が伸びて俺を突き刺そうとしている。


「外に出たらダメよ」

「……理由は?」

「フィネちゃんに殺されるから」


一度は倒した相手だ。楽勝とは言わずとも互角に戦える自信はあった。この前、再戦したときも撃退できたしな。


だがカーリンは、俺が絶対に負けると考えているようである。


「根拠は?」

「村で熱い再会をしたときは感情が不安定で実力を発揮できてなかったんだけど、今は違う。複数のダンジョンマスターを吸収して、手に入れた力を充分に発揮できる状態よ。私でも勝てる相手ではないわ」


シェムハザの能力を使って強くなっていたのかッ!

複数のダンジョンマスターを殺して魂を取り込んだフィネは、恐ろしいほど強化されているはず。どうやら俺は相当、運が良かったみたいだな。


「ダンジョンが消滅したという話を聞いていたが、フィネ、いやシェムハザが捕食してたのか」

「そうよ。フィネちゃんには終末の魔王になってもらいたいから」


俺は少し勘違いしていたようだ。カーリンが自らの手で世界を破滅させようと動いていると思っていたが、舞台を整える役でしかないようである。


世界の敵はフィネにやらせるつもりだったんだな……。

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