第696話私の体を好きに使って――

「アンタの意見なんて、ロンダルト王国や教会の前では意味ないわよ?」


貴族や教会に翻弄されてきたので、ローザの言いたいことは分かっている。俺個人が反対しても、ヤンやソフィー、エレノアを人質に取られてしまえば、従うしかないからな。


嫌だってごねる子供ではいられない。相手を説き伏せるような力か、逃げ場所が必要となる。


「魔物が管理する孤島、か」


思いだしたのは、フィネが人間を家畜のように育てるために用意した島だ。あそこなら権力の届かない場所なので、安心して住める。


「今度はフィネやカーリンに利用されてしまいますよ?」

「だな」


ソフィーに指摘されるまでもなく、それも分かっている。特にカーリンは魔物の世界も破壊しようと動いているので、ギフト持ちの俺なんて都合の良い駒ぐらいの感覚で使い潰してきそうだ。そういった意味では、人間より質が悪い。


「私は教皇になることをオススメするわ。聖女を侍らしても文句は言われないし、権力は使いたい放題よ」

「ついでにローザを買い取って奴隷から解放してくれ、なんて思ってないか?」

「鈍いアンタにしては珍しく正解よ」

「お前……」


呆れてものが言えない、という珍しい体験をしたぞ。


確かに教皇になれば例え犯罪奴隷だとしても、赦しを与えて解放すること自体は問題なくできる。

教皇になった俺が欲しいと言えば、ゼルマは適正価格で売ってくれるだろうし、可能性がゼロという話ではなかった。


奴隷という身分から脱したいローザとしては、この方法しかないとぐらいまで思っていそうだな。


「教皇になってくれるなら、私の体を好きに使って――」

「ローザさん」


ソフィーの冷たい声を聞いて、ローザの口がピタリと止まった。

魔力が漏れ出しているみたいで、ソフィーの髪がふわりと浮かんでいる。本気で怒っているようだ。


「安心しろって、ローザの体なんて興味はない」

「ということは他の女性なら興味あるんですか? 例えば……ゼルマさんとか」


あふれ出しそうな感情を抑えきれないようで、珍しく問い詰めるようなことを言ってきた。


矛先が俺に変わったと分かりローザはニヤニヤと笑っているので、睨みつけてからソフィーに話かける。


「俺はソフィーとエレノアにしか興味はない」


ソフィーはエレノアの存在を認めているので、むしろ二人の名前を入れなければ問題になる。これで正解なはずだ。


「本当ですか? 実は他の女性も気になっていたりしません?」

「そんなわけないだろ。特にローザなんて魔物のエサにしても良いと思っているぐらいだ」


なんかローザが文句を言っているが、今はそれどころじゃない。暗い目をして俺の心を見透かしてきそうなソフィー。彼女を落ち着かせる方が優先度は高いのである。

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