第695話聖女と元聖女を侍らせている男に、どんな感情をいただくと思う?

「なんだか含みのある返事だな。言いたいことがあるなら、素直にいえよ」


ローザは返事をせずにソフィーを見た。


なんで俺じゃなくて彼女に気を使うんだよ!


「私も聞きたいので教えてください」


文句の一つでも言おうと思ったのだが、許可が出てしまったので黙ることにする。ソフィーのお願いには弱いのだ。


「教会の権威が地に落ちたからといって、人々が創造神を崇めているのは変わらないわ」

「そうだな」

「聖女と元聖女を侍らせている男に、どんな感情をいただくと思う?」

「…………嫉妬するよな」


教会の聖女のファンは多い。様々な戦場に出て人々の傷を癒やしてきたソフィーなんて絶大な人気を誇っていたし、カリウス三世に振り回されたエレノアは同情されつつ、実は心優しい性格だと知られてから人気が爆発しているとも聞いている。しかも、発展中とはいえ田舎で質素な生活をしているんだから、本来あるべき聖女の正しい姿だと評価している者までいるようだ。


そんな二人を俺が独占しているんだから、負の感情を向けられても不思議ではないと思っていたのだが、


「想像力が甘いわね」


ローザの意見は違うらしい。

トゲのある言い方がムカつくものの黙って続きを聞くことにする。


「神の寵愛を受けている聖女を独占している男が次期教皇に相応しい、なんて話が出ているのよ」

「はぁ!? ありえないだろッ!!」


教会から追放されたソフィーと、人生を振り回されたエレノア。この二人がようやく自由に過ごせるようになったのに、なんで俺が教皇になるなんて話が出てるんだよ。意味が分からない。


「しかもあんたギフト能力持ちでしょ。周囲は嫉妬より納得感の方が強いわよ」

「マジかよ……」

「しかも、枢機卿やエルラー家が後押ししているとの噂……変な流れに飲み込まれないよう、気をつけなさい」


ギフト、貴族界隈では権能とよばれる能力は、創造神から力を分け与えてもらったと言われている。確かに、聖女の伴侶としては相応しいと考えるヤツらがでても不思議ではないか。


この動きは予想できなかったので驚きしかない。


「私は、どちらでも良いですよ」


ソフィーの笑顔に圧力を感じた。

どちらでもいいって……自惚れではなく事実として、俺と一緒にいられるのであれば、立場なんて気にしないと思っていそうだ。エレノアは聖女という肩書きは捨てられないだろうから、ソフィーの考えが特殊なんだろう。


「俺は教皇なんて立場はゴメンだね。ヤンで自由にのびのびと生きたいだけだ」


せっかく冒険者に戻ったんだから、組織に縛られたくなんてないぞ。


働きたいときに働き、休みたいときに休む。そんな日々が良いのだ。


今回みたいに断れない依頼もあるが、ヤンのためになるのであれば嫌ではない。むしろ、知った人間を守るためだと思えば、やる気は出てくる。


そう言った部分をローザは甘いと指摘するんだろうが、変わることはないから諦めるしかない。

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