第693話ダンジョンから発見されたんですか?

「奥の槍を見に行って良いですか?」


一つだけ丁寧に飾られていた槍がずっと気になっていたので、話題を変えるついでに提案をした。


「……良いだろう。案内する」


怒りを抑え込むのに数秒かかったが、どうやら受け入れてくれたようだ。ゼルマは足音を立てながら奥に進んだので、俺たちも後に続く。


遠くで見ただけだとギフト能力が発動せずに、どのような効果があるか分からなかったが、近づいた今なら大まかな内容を把握できる。


これは掘り出し物ってレベルじゃないかもしれんぞ。


「とんでもない槍ですね。聖剣やロンダルト王国の宝剣と比べても、遜色ありません。いや、それ以上かも」

「さすがだな。あの槍のすごさが分かるか」


褒められたのが嬉しかったのか、ゼルマは自慢げに言った。


「ええ、もちろんです。傷を付けた相手を呪い殺す槍なんて初めて見ましたよ。しかも回復を阻害する効果まである。これ一本で上位の魔物と対等に戦えますよ」


聖剣や炎の剣は対軍用の武器だとしたら、これは対個人用の武器となる。大量の敵と戦うのには向いていないが、個人を殺すには最適だ。


特に上位の魔物は自己回復能力をもっているので、槍の効果で阻害できるのは大きい。対等以上に戦えることになるだろう。


槍の長さは二メートル弱と長くはないが、取り回しが楽と考えれば問題はない。


「正確には腐食の呪いだな。穂先に触れた部分から腐り落ちていく。無機物も例外ではないぞ」


その言葉が真実なのは、ギフト能力が教えてくれた。


石ですら触れれば風化して崩れ去ってしまうらしい。呪いの耐性を持っていても、何度も傷つけられれば突破されてしまうだろうし、恐ろしい武器である。


「人の手で作れるものではありませんね。ダンジョンから発見されたんですか?」

「分からん。詳細は不明だ」


こんなものが量産できれば、人類は魔物を駆逐しているはず。詳細不明ではあるものの、少なくとも人間が作ったわけではないだろう。聖剣のように神が創ったと言われても、不思議ではない。


「触っても良いですか?」

「かまわんが気をつけろよ」

「もちろんです」


体が腐ったら困るからな。

槍に近づくと、柄を触って持ち上げる。意外にも軽かった。


「軽量化もされているようですね」


ギフト能力を使って、左手に呪いの槍を創造した。重さ、長さ共に全く同じだ。もちろん、呪いや回復阻害の機能だってある。


「見て触っただけで、全く同じものが創れるとは。まったく便利な能力だな」

「俺しか使えませんけどね」


手を離したら消えてしまうため、誰かに使わせることはできない。どんなに高性能な武器を創造したとしても、使い手の技量が低ければ意味はないので、自らを鍛え続けなければいけないのだ。


俺に戦いの才能がなかったら、無意味なギフト能力として死蔵していただろうよ。


「だからこそ、誰もがラルスを欲しがる」

「迷惑な話です」


心から出た言葉だ。本音である。

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