第692話報奨として贈ったんだと思います
ゼルマがつかつかと音を立てて部屋の中に入っていったので、俺やソフィー、ローザも後に付いていく。
部屋の入り口付近には業物だが、金を出せば手に入りそうな武具が並んでいる。最初は価値が低めな物を置いているようだ。壺や皿、絵画などもあった。
ローザは目をキラキラと輝かせながら、眺めている。
「そんな顔をしても、お前の物にならないぞ?」
「知ってるわ。妄想するだけよ」
ったく、こういった物が好きなのは変わらないな。俺には理解できん。
数歩進むとソフィーが天井を指さした。
「あの絵は、三代前の教皇が描いたものですね」
顔を上げると、どでかい絵画が広がっていた。
白い羽の生えた人間が、アンデッドたちと血みどろの戦いを繰り広げている場面である。血の臭いがここまで漂ってきそうなリアルな描写に、思わず眉をひそめてしまった。
「すごい技術だな。教皇には、絵を描く能力が求められるのか?」
「そんなことありません。三代前は描くことが好きだっただけで、カリウス三世のように収拾する人が多かったと聞いています」
まあ、普通はそうだよな。あのデブが綺麗な絵を描けるほうが驚きである。
「でもなんで、エルラー家の宝物庫にあるんだ?」
「報奨として贈ったんだと思います」
「正解だ」
立ち止まり、振り返ったゼルマが、ソフィーの言葉を肯定した。
「クルトのダンジョンから、聖魔法の力を増幅させる杖が見つかったときがあってな。教会に献上したら、いただいた物らしい」
ユニーク個体が持っていた武器だろう。苦労して手に入れて、エルラー家が高い金で買い取ったはず。それが教皇のありがたい絵画に変わった訳か。
当時のエルラー家当主は怒り狂っただろうな。
それとも恩が売れたと喜んでいたか?
ほこり臭い場所に保管したことから、俺は二度と見たくないと、怒り狂った当主の顔が思い浮かんだ。
「コイツがある限り邪教徒とは認定されないらしいので、お守りとして飾っている」
どうやら宗教的な価値はあるようだ。教皇が自らの手で描いた絵画には特別な能力があって、邪教徒なのか判別が付く。みたいな価値があるなんて、触れ回ったんじゃないだろうな。
「そんな物があるなんて、聞いたことありませんが……」
元聖女であるソフィーが否定すると、ゼルマの頬がピクリと動いた。
あれは怒りを抑えたな。
世代が変わって無価値になってしまったことを知って、感情が爆発しそうになったのかもしれない。
「ちッ。今度、焼き捨ててやる」
いやいや! ダメだろッ! それこそ邪教徒として認定されるぞ!
演技で良いから、もう少し教会に対する敬意みたいなのを見せるようにした方がいいぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます