第690話察しが良いな
「事情は分かったようだな。ダンジョンマスターに何が起こっているのか知りたい。ラルスには使者としてフィネに会談の場を設定するよう、話してくれ」
事情は理解したが、魔物と会談は無謀な話である。
相互理解なんて不可能な相手だし、騙されることもあり得る。悪意なく俺たちを罠にハメてくることもあるので、油断できる相手ではないのだ。
「会談ができたとしても、まともに話せるとは限りませんが?」
「わかっている。それでも我々は知る必要があるのだ」
少しだけ違和感を覚えた。
カーリンと取引をしたゼルマは、このような状況になることぐらい想像できていたはず。ついでに情報を集めようとするのであれば分かるが、多大なリスクを背負ってまで、フィネに接触したいとは思わないはずなのだが……あぁ、なるほど。
後ろに命令した人間がいると考えれば、説明がつくか?
少し、探りを入れてみよう。
「カーリンと取引したゼルマ様にとって、ダンジョンマスターがどう動こうと問題ないですよね? なぜ、そこまで知りたいので?」
ソフィーも違和感に気づいたようだ。
俺の言葉に彼女が続く。
「フリード国王陛下から話が来たんですね」
この国の王が、そんな名前だったな。
他国のダンジョンが暴走しているのであれば、自国を心配するのは自然な流れか。王命であれば逆らうのは難しいだろうし、ゼルマの態度も納得ではある。
「そのとおりだ。ダンジョンマスターから情報を集めろと、ありがたい王命をいただいたんだよ。しかも王家からは、何も援助できないと言われていてなっ! 腹が立つ」
嫌なことを思い出したようで、グラスに残っていたワインを一気に飲み干した。
ドンと、音を立てて置く。
「だが、悪いことばかりではない」
一呼吸置いてから、ゼルマは再び口を開いた。
「ヤンの方は大丈夫でも、クルトのダンジョンが消滅する可能性はある。破滅思考のカーリンが、どこまで狙っているのか探りは入れたいと思っていたのだ」
「……それは、フィネとの会談にカーリンも呼べとのことでしょうか?」
「察しが良いな」
野性的な笑みを浮かべながら、俺の考えを肯定した。
フィネとカーリン、おまけにシェムハザなんて、組み合わせとしては最悪だ!
もし会談が実現しても生還できる自信なんてない。
「俺に死ねと言っているんですか?」
「まあ、そう焦るな。私だって無茶な話をしているという自覚はある。だからな、強力な味方を用意してやる」
ダンジョンマスターを二人相手に立ち回れそうな騎士が、エルラー家にいるのか?
いや、あり得ないだろ。いくら子爵家とはいえ、そんな優秀な人間を従えているとは思えない。
一体誰が出てくるのか予想が付かず、ソフィーと顔を見合わせながら味方の名前が出てくるのを待っていた。
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